第42回「大学入学後、大学デビューに成功したある青年の話」その1 

実体験・人間考察コラム

大学に居場所をなくしてしまったN君。

大学入学後、自分らしさを見失い、自分の殻に閉じこもってしまったY君。
   
そして今回登場するK君は、大学に自分の居場所を見つけ、華々しい大学生活を謳歌出来た対極的なモデルです。


大学に入学したのち、出逢いに恵まれて本来の自分らしさを開花させられたのかどうか、彼の4年間を追体験することで明かして行きたいと思います。


● 大学デビューとは(はてなキーワード参照)

高校を卒業して心機一転、大学生となるのを機にこれまでのキャラを変えてリア充大学生へと変身しようとする試みのこと。

    
K君もN君、Y君と同様に私の高校時代の友人でした。

性格は私とは正反対で、細かいことは気にせずに、なんでも器用にこなすクールなヤツでした。

寡黙な彼は、決して自分から周囲の人間に進んで話しかけようとしているわけではなかったのですが、ミステリアスな人柄に魅かれた数人の友人が常に傍についていました。

ルックスはサッカー元日本代表の宮本恒靖似で、Y君同様、いわゆる美男子でした。

女子の間では、Y君と肩を並べるくらい人気があったのですが、当の本人は、そのシャイな一面からなのか、モテる男を意識しているから歩み寄って来る女子とは一線を引いており、常に男友達と行動を共にしていました。

高校3年間の彼の女性遍歴は今でも謎に包まれたままですが、彼と共に学校生活を共にしている中で、他校の女子生徒から番号を聞かれたり、下級生からラブレターを渡される場面に多々遭遇しました。

彼のモテっぷりはかなりのものでした。


そんな彼はどこか近寄りがたいオーラを放っていたのですが、K君と仲良くなったきっかけは、当時私がハマっていたコナミの音楽ゲーム「ビートマニア」の話題でした。

彼が凄腕であることを耳にしていた私が緊張しながら初めて話しかけたのです。

「うん、好きだよ。もしかして君もやるの?」

想像してたよりも朗らかに答えてくれました。


いざ話してみると好感触で、それまでの彼の外見と普段のそぶりから、「近寄りがたいオーラを醸し出しているK君」と、先入観を抱いていた自分が恥ずかしくなり、みるみる彼の人柄に惹きこまれていきました。

K君とはビーマニつながりで意気投合して、クラスで一番の朋友になりました。

学校帰りにゲームセンターで一緒にセッションしたり、自宅に戻ってからも当時流行っていたMSNメッセンジャーというチャット機能で深夜遅くまでやり取りをしていました。

クラスメイトから垣根を越えた親密な間柄になっていきました。

私とは対照的な人柄の彼とは時に意見の不一致から喧嘩したりしながらも、後を引きずらずに、学校の中ではほとんど二人で行動していました。

そして、自分には持っていない(特に異性にモテる、ファッションセンスが良いなど)要素を兼ね備えていたK君の背中を追い続けていました。
   

そんな彼との関係にズレが生じたのが、高校を卒業した後の環境の変化でした。


私は卒業と同時に都内の私大に進学したのですが、私大一校のみしか受かっていなかったK君は、入学手続きの期日までの刹那な期間、葛藤を重ねた末に浪人の道を選択したのでした。



彼は、学校の延長線上とも言える予備校での学びのスタイルを選んだのではなく、自宅に籠りながらひたすら自分自身と向き合わなければならない自宅勉強浪人(宅浪)という試練の道で、浪人生活のスタートを切ったのです。
 

私にとっては「なぜ?」の選択でしたが、自分の世界をしっかり持ち、マイペースな気質の彼には、適合してしていたのかもしれません。


彼はメールや電話には快く応じるものの、実際に会って遊ぶとなると明らかに距離を置いていました。

極めつけなのがこの出来事です。

入学後彼以外全員現役で大学に合格した高校卒業組6人を集めて、上野で飲み会をしようという企画を持ち上げたことがあったのですが、彼は理由は言わずに、頑なに拒んでいました。


独り孤独で必死になっている彼の気持ちを慮らないで、非情な声をかけてしまったなぁと反省しましたが、彼は閉塞した世界で抱えるストレスと、合格へのプレッシャーは想像以上だったと察します。


1年の忍耐の末に、長かった受験戦争に合格という形でピリオドを打ちました。

 
自宅からの通学圏内の私大に進学を果たした彼は、それまでのストレスから解放されたかの如く、高校時代の集いに率先して参加を希望してきたり、夜遅くまでカラオケに付き合ってくれたりと、失われていた時間を自分なりに取り戻そうとしている様がよく伝わってきました。

 
そして季節は変わり2003年4月の春。


私は大学2年生に、K君は大学1年生で新しい生活をスタートを切ってからも、相変わらず彼とは頻繁にメールや電話を交わしていました。

話題の中心は、専らゲームやネット関係だったのですが、K君が入学後テニスサークルに所属したこともあって、ゴールデンウィークに帰省した時に合流し、テニスを楽しんだりもしていました。


ある時、K君は深刻そうな面持ちでこう切り出しました。
 
「大学って思っていたより、楽しくないよ。サークルもあんまり行ってないし、そのうち辞めるつもり」

 

私も時を同じくして「大学の選択ミス」を抱えていたので、K君とシンクロしました。

自分語りをするタイプではないK君の意外性から、私は更に親近感を覚えるようになりました。


その発言後まもなく彼はテニスサークルを退いたのです。


彼とは傷ついた者同士、高校時代の延長で共に新しい人生を築いて行けると信じていました。


しかし、転機を迎えたのはその年の夏でした。


それまでのK君から徐々に違和感を覚えるような発言と行動が多々目立ったのです。
 
    
夏休み期間に私は地元に長期滞在していたので、K君と遊ぶ機会も増えました。

発端は、ある日彼の車に乗って(車通学のために必要と、入学にあたって中古車を購入していたのです)いつものゲーセンに向かおうとしている途中の会話の流れでした。


「やべぇ、最近まじ大学楽しくなってきたわ」
  

    

!!


K君が耳を疑うような意表をついた事をさらりと述べてきたのです。
   
 
えっ!?

だってついこの間大学微妙で、サークルも合わなくって辞めたって言ってたばっかりじゃん。
 
それなのにどういうことなの?


 
私の問いを無視して彼は続けます。


昨日も5時に家に帰ってきて全然寝てないからだりぃわ~。事故るかもしれない(笑)


 
色んな意味で危険なにおいを感じさせられる意味深な内容をさらりと述べてきたのです。
   
それまでK君は、自分から聞きもしないのに、「この前~と~して遊んだ」などと、第三者の存在を話題にすることは皆無に等しかったので、何事かと思いました。

つい数日前まで確かに「大学には満足いっていない」と言っていたので、すぐにはその新事実についてはいけませんでした。
 
  
その時の私は、蛇に睨まれた蛙のようにフリーズし、ただ黙って聞き入れることしか出来ませんでした。
 
   
その後矢継ぎ早に浴びせられたK君の軽快トークをまとめると、

 
前期授業最終日の夜に、大学近くの居酒屋「和民」にて、同じ学科の飲み会(英語の授業で同じだった学籍番号が近い30人くらいのメンバーが参加)が開催された。

今まで顔なじみのメンツはいたが、高校時代のようにクラスが存在せず、基本的に授業や学外での移動時でしか顔を合わせることがない大学のシステムにおいて、学生とゆっくり話す接点や、お近づきになれる機会がなかったのだが、この飲み会をきっかけにアイスブレイク出来た。

入学当初周囲の会話に耳を傾けると、同級生はほとんど現役で進学してきている中、自分だけが浪人して1年のブランクが開いていることで、気後れしていた。だから、しばらくの間学科の人間との接触を避けていた。
 
でも、今回飲み会というフランクな場で、年齢的には一つ先輩という立場から思い切って歩み寄ってみたら、年上という点から興味を持ってもらえて、溶け込めたとのこと。

意気投合出来る友達が4人作れて、つい昨日もそのメンバーでカラオケオールしてきたから、ろくに睡眠も取ってない。その延長で私と落ち合った。


K君は、サークルを辞めたことで心機一転して、学科のメンバーと隔たりなく向き合えたそうなのです。

そういう意味でその前期打ち上げの飲み会は、自分を変えるタイミングとして千載一遇のチャンスだったのです。


へーそうなんだ。楽しそうでなによりだね・・・・・・。


高校時代には見たことがない一面と、私自身が対照的にうまくいっていない現実から動揺を隠せませんでした。

コンビニに寄るために車を降りようとした時、彼の携帯の着メロが勢いよく流れて(マナーモードは解禁されていました)、彼はすかさず反応していました。
 
おっ、昨日はお疲れー。まじ楽しかったぃねー。

今?
 
今はちょっと出かけてる。

 
会話の流れから、昨夜オールをした大学のメンバーのうちの一人からかかってきた電話だということがすぐに推測出来ました。


「今何やっているの?」という相手の質問に対して、彼は何事もなかったかのように、出かけていると答えていましたが、私の存在に触れていない=空気のような扱いにされたショックは一入で、3年以上の関係がある私以上に快活に話しているK君の横顔が、まるで別人のようでした。


K君のその楽しそうな会話の様子から、私は嫉妬に近い感情と悲しさが入り混じり、その場から離れたくて仕方がありませんでした。

私が傍にいることなどお構いなしで、そのまま30分くらいK君は電話に夢中になっていました。

電話を切った後に、待たせておいて悪びれることなく、何事もなかったかのように、コンビニに入っていったので、私の中のK君に対する悶々とした気持ちは発散されることなく、その後も増幅されていくのです。

この日はオマケがついてきて、「この後他の友達と会う」と唐突に切り出してきたK君に合わせる他なく、予定よりも早く切り上げました。

大学が上手くいっていない私、テンションが急下降していく私とは反対に、ボルテージがぐんぐん上がっていくK君とは別世界の種族に感じられました。

    
車内のオーディオで、オレンジレンジの「上海ハニー」を大音量で流し、ノリノリで唄いながら去って行くK君とは、この日を境に急速に溝が広がりました。



そんな大学デビューに成功したK君が再び自分の殻に閉じこもるようになるのです。
    

その2に続く

Posted by TAKA