第37回「本気で死を選ぼうとしたその先には-片思いから壊れていく心」その8

2015年12月3日実体験・人間考察コラム

※今回は最終章なので、かなりの長文になります。

もう大丈夫だ→やっぱり忘れられない→もう大丈夫だ

この繰り返しで生きる気力をどんどん失っていきました。

誰にも開けることの出来ない自分の殻に閉じ篭った私は、夜の街に救いを求めていました。
    

今の自分を誰にも見られたくない。親にも親友にも冷静に客観視しているもう一人の自分にも。

大学もさぼりがちになり、夜遅くまでゲームセンターや夜の繁華街に居場所を探しては、全てを無に還そうとしている自分がいました。

そこに救いはありませんでした。

歌舞伎町に足を運んで風俗店に癒しを求めようとしても、もう一人の自分が歯止めをかけてしまう。

どんなに夜のゲームセンターや漫画喫茶に自分だけの場所を作ろうとしても、虚しさと意味のない時間しかない。

私はあるべき場所に帰らざるを得なかったのです。

苦しくて、切なくて寂しくて、私はいつしか自分でもどうしようもない苦しみを第三者に救いを求めるようになっていました。

バイトの後輩の女の子を誘って出掛けても、面影を重ねられず心の隙間は埋められませんでした。

 
赤羽の駅前広場や渋谷のハチ公前でただ人の流れを眺め続けることも多々ありました。

うつむき加減の顔。幸せそうな笑顔。しかめっ面、色々あったけどみんな日々を精一杯生きている。

私は寂しくて孤独でどうすることも出来なくて、自分に声をかけて導いてくれる誰かを渇望していたのです。

 
しかし、幾度街に足を運んでも、そのような人間に出会うことはありませんでした。
 
    
私の胸の奥底にあった1%の希望すら叶われることはなかった。

  
人生ってなんてつまらないんだ。

世の中駄目な奴は何をやっても駄目なんだよな。

私の口癖でした。

他者との距離はますます開いていって、自分を殺し念じ続ける日々。そんな生活が数ヶ月続いたある時、私はもう考える事にも、いつも顔を合わす大学の友人に平然を装うのにも疲れ果てた自分は無意識的に「死の世界」へと救いを投げかけはじめたのです。

もう考え苦しむだけの日々に疲れ果てたよ。
 
自分なんて生きる価値ないし、この先何もいいことなんてないんだ。

ただの片思いでこんなに苦しむ自分は弱すぎるから、これから生きていけるわけがない。

消えてなくなってしまいたい。

ある夜半、私は自分の部屋の鏡の前に立ち、ハサミを片手に取って全てに終止符を打とうとしていました。

リストカット、ことの重大さを知っていましたが、もはや冷静な自分を失った今、死こそが全ての救いだと信じて止まなかったのです。

生気を無くしてしまって、亡霊のような血の通っていない痩けた顔をしている自分。

鬼のような形相で、鏡に映るもう一人の自分を睨み付ける変わり果てた様。

そんな自分から逃げるかのように意を決して、先端を左手首に突き刺そうとしても、まだそんな自分を抑制しているもう一人の自分がいました。

忘れかけていた自分。もう完全にいなくなったのではなかったのか。
   
私は逝けませんでした。

結局自分で自分を殺すことすらも許されなかったのです。
 
私は全てを抱えたままこの世界で生き続ける他なかったのです。

そしてあの晩、全ての転機が訪れたのです。

その夜は久しぶりに兼ねてからの親友とディナーを迎えていました。

本来ならば誰にも会うつもりはなかったのですが、どうしようもない孤独、やり場のない思いを抱えた自分は、心の何処かで彼にこそ本当の自分を分かって欲しいと切望していたのです。

自分の注文がテーブルに揃った時、妙な違和感を感じました。

目の前の食膳を見据えた瞬間、吐き気が襲ってきて、血の気が一気にスーっと引いていき、心臓が恐ろしいほどに圧迫されて呼吸困難に陥ったのです。

顔面蒼白だった私は、食べることどころか話すことすらままならない状況でした。

その異常さを察知した友人は、食べ物に手をつけるのをやめて、すぐさま私を車で自宅まで運んでくれました。

私は脂汗と、今までにない苦痛でいっぱいっぱいで、動くことすら出来ませんでした。

そして死が鮮明に迫ってくる恐怖で頭が支配され、なぜかこれまでの20年間にわたった私の半生が走馬灯のように流れはじめたのです。

このまま悶え苦しんで死ぬ。

私は咄嗟にそう悟りました。
 
待ち望んでいた展開が手を加えずともやってきた。
 

これで楽になれるはず・・・・・・でした。

 

苦しい。助けて。生きたいよ!死にたくないよ!

刹那な時間の中ではじめて込み上げてきた「生への渇望」でした。

苦しくて苦しくて、全体を蝕まれて身動きも取れなくて、極限状態に立たされて、死への恐怖が芽生えたのです。


その後、私は両親によって緊急外来に連れていかれ、すぐに診察を受けた結果、重度の精神疲弊である旨を伝えられました。


具体的な病名は告げれずに、精神安定剤を処方されて、その場を後にしました。


数日後、私の体は正常になり、日常生活を送るのに支障がなくなりましたが、医師から渡された安定剤は使いませんでした。

この期に及んでも、現実を受け入れたくなかったのです。

母親も友人も心から心配してくれたその姿を目にした時、はじめて気づいたのです。


自分は死ぬために生きているのではない。

誰かに生かされているのだ。

 
と。


人間落ちるところまで落ちたら後は這い上がる一方だといいますが、この出来事が奈落の底から脱出する大きなターニングポイントでした。
    

それからの自分は変わりました。

いや、自分の生きる目的を発見したと言い換えたほうが良いのかもしれません。

自身のサイトで悩み相談やコラムを書き始めたのもこの時からです。

もうこんな苦しみは二度と経験したくない。

こんな自分の体験が誰かのために生かされるのならば、これまでの全てに意味があったと思えるから。

これまで自分を塞ぐことばかりいた私は、誰かのために、誰かに必要とされるために生きる道を選んだのです。

それがいかに楽で意義のあることかすぐに分かりました。
 
逆境を乗り越えたなんてかっこいいものではありません。心が強くなったわけでもありません。

今の私は出会ってきたみなさんの「ありがとう」が救ってくれたのです。



最後に、リバースになりますが、彼女に久しぶりに電話をかけてからの顛末をお話します。


正直忘れかけてた。


数ヶ月ぶりに聞いた彼女から告げられた絶望の一言。

信じたい、信じたくない。

正常な判断力をかけていた私ですが、今まで私に見せてくれたあの素直で純粋なやさしい彼女が、あの時かけてくれた数々の救いの言葉や笑顔を与えてくれた彼女の真の姿が”魔性の女”であったとは認めたくはありませんでした。


あの時あの瞬間は偽りのない事実だった。

間近で見てきた自分だからこそ彼女がそんな冷酷な人間なはずはない。



私は日々襲ってくる欝やトラウマに苛まれながらも、彼女に対して信じる心を忘れてはいませんでした。

    
時間は止まることを知らず、二ヶ月が経ち、季節は夏へと移り変わり私は大学三年生になっていました。


その間大きく変わったのは彼女が社会人になったこと。

四月に短大を卒業し、地元を離れ一人暮らししながら会社通いになることになった彼女と私の間には相変わらず沈黙の時が流れていました。


今彼女は何をしているのだろうか。
社会に進出することで、彼女のような純朴な人柄につけこむ人間はいないだろうか。
彼女と彼氏はあれからどうなったのだろうか。
一人暮らしで寂しくないのだろうか。


自分のことを覚えていてくれているのだろうか。

    
想像の世界で彼女の生活模様を描き、煩悶する日々は積もり、我慢の限界を迎えた自分は、時を越えてまたメールを送ってしまったのです。
    

すごい久しぶり!社会人になってどう?

    
刹那な時間の中で蘇るあのドキドキやワクワクが、今の私には新鮮で甘酸っぱくて仕方がありませんでした。


そう、この気持ち、出逢った当時の自分に舞い戻ったようでした。
   
 彼女からはすぐに返信がきました。



久しぶり!日々新しいことの連続だけど、頑張ってるよ。 

たかは元気?



我慢に我慢を重ねてきた毎日がようやく報われたような気持ちになりました。


また、これから再開できる。


冷却期間の後はチャンス到来と言いますが、可能性を感じていました。


この日を境に、彼女とはちょくちょくメールや電話を交わす関係になりました、
    
たとえ社会人になってもあの頃の彼女となんら変わりはなかった。

相変わらずの彼女の喋り口調を聞いて、親近感が私の心を満たしました。

盛夏にめぐり合えたこの奇跡を噛み締めながら、彼女に会えるのもそう遠くはない。

そう確信していたのです。



しかし、環境は確かに人を変えつつありました。
 

   
輪廻転生。

そしてまた繰り返す黒歴史。
    

こんばんは。たかに恋愛相談していい?



青天の霹靂でした。

昼から夜まで9時間労働のアルバイトを終えて、ようやく帰宅した直後に届いた彼女からの声です。


咄嗟に私の脳裏に浮かんだのは二つの疑惑。

彼氏とのことを言っているのだとすれば、まだ別れていなかったのか。
彼女の意思は変わってなかった。やっぱり自分は完全に友達として線引きされてしまったのか。



両方の答えが次の返答ですぐ分かりました。 

今、会社の上司に恋をしているんだど、遊ばれちゃうかな?

ちなみに前の彼氏とは半年前くらいに別れたんだ。



彼女によると、同じ会社の10歳年上である上司のことを好きになったのが一ヶ月くらい前の話で、その上司曰く結婚を前提に付き合っている遠距離恋愛中の彼女がいるそうなのです。

交際4年目にして、最近はお互いマンネリ気味らしく三ヶ月くらい会ってもいないし、連絡も控えているらしいとのこと。

そしてその上司の全てを理解した上で、彼女はここ最近毎週必ず彼と二人でデートをしているという。

長く付き合っている彼女がいるのをわかってて会ってはいけないのだけれども、会ってしまう。

会えば会うほど気持ちは昂ぶっていって、彼から離れられない自分がいる。

彼は自分の気持ちを知っているはずなのに、デートが終わった後に抱きしめて「離れて欲しくない」と真剣な眼差しで囁いてくるそうなのです。

彼女と彼氏は別れていた。
彼女は新しい男性との恋路を進んでいる。



新しくわかった新事実した。

そして、今こうして悩み苦しんでいる彼女は、まさにあの頃彼女を想っていた自分と重なりました。

それから彼女はその意中の男性と離別を選びました。

彼が彼女を失いたくないために、何度も電話をかけてきたそうです。

それでは心を鬼にして彼女は応えませんでした。

彼女は自分以外の第三者(上司の彼女)を傷つけてまでも幸福を手に入れたいとは思えなかったのです。


同時に、私ももう目を覚まさなければいけませんでした。


全てを終わらせよう。
未来永劫に終止符を。


暮れなずむ夕刻に、私は彼女と10ヶ月ぶりに再会を果たしました。

地元の公園に呼び出したのです。

彼女が美容院に寄ってから会うので時間が遅くなってしまうとのことでしたが、私は話すことはすでにひとつだけに決まっていたので問題はありませんでした。

美しい化粧で肌は覆われ、髪は雑誌モデルのような形状記憶パーマをかけていて落ち着いたファッションで身を包んだ彼女はすっかり大人の女性に様変わりしていました。

エステにも月1回通いながら自分の給料でしっかりとアフターファイブを楽しんでいる彼女の姿はかつて同じ職場で学生の観点から切磋琢磨しながら働いていた者同士とは思えませんでした。


話って・・・・・・何?



セミたちの声が木霊する中、単刀直入に私の想いを伝えました。
    

彼女のことを今でも好きだというそれだけのこと。

あの空白の時間を経てもそれでも想いは変わらないということ。

自分なら絶対この先いつまでも彼女を大切に出来るということを。

3回目にして、はじめて出来た面と向かっての告白。


もはや緊張とか恥じらいとかそういう些細な感情はありませんでした。

この冷却期間の数ヶ月、ひたすら守り続けてきた片思いを解き放ちたい。
 
私は蓄積してきたひとつの想いを溢れんばかりに彼女に届けました。


沈黙が訪れました。

電話とは違って、リアルな彼女の横顔を眺めることが出来る自分。
    

彼女静かに語りはじめました。

正直、今でもまだ私のことが好きだとは思わなかった。
こんな経験もはじめてだし、とにかくうれしい気持ちでいっぱい。

でも、やっぱり友達として見てきたから・・・・・・。



話の途中でしたが、私は引きませんでした。

ここで自分が折れてしまったら、もう二度と先には進めないような気がしたのです。
 
一人の時間の長さ、過去に味わった強烈な後悔や自己嫌悪が逃げようとする私を牽制しました。

それでも付き合ってみないとわからないじゃん。

それって固定観念かもしれないし、これからお互い意識して会ったりを重ねるうちに考え方も変わるかもしれないし。

だから答えは保留でいいから自分の気持ちを知った上でスタートを切ってみない?


彼女はまたもうつむいて考えこんでしまいましたが、結局私の追い討ちに観念したのか、私の意図を飲み込んだようでした。


わかった。

今すぐたかを恋人とは思えないけれど、確かにわからないかもしれない。



すっかり景色はうす暗くなっていて、彼女に気持ちに話すことに夢中で時計を見ていたら1時間が経っていました。
    

そして、これが彼女と過ごす最後の時間になったのです。



3日、5日、1週間が経っても彼女から連絡がくることはありませんでした。

その間私から彼女にアプローチすることもなく、ただ何もない時間だけが過ぎていきました。

あの晩に、私は彼女のメモリーを一瞥して、次の瞬間ためらいもなく削除していました。

1年間私の携帯に絶えず記録されていたその思い出は、あまりもあっけなく消し去りました。


これで完全に終わった。



今まで幾多の岐路を迎えて来ましたが、今回の私は心の底からそう直感していました。

それから二度と彼女と会うことも連絡を取ることもありませんでした。

何が正しくて、何が理想で、何を選べば望みどおりの未来に進めたのかはわかりません。

自分の殻を覆いつくす虚無の世界は全て錯覚だったのかもしれません。




ずっとずっと私は求め続けてきました。

目の前に浮かんでいるものの、決して手が届かない彼女の背中を追い続けながら、ひたすら歩いてきました。

どこからか私の仲間たちが「こっちにおいで、こっちにこい」と往々にして声を唱えてきました。

それでも私は見てみぬふりをし、盲目になりながらも彼女の偶像を追うことだけを視界に、突き進んできたのです。


3度目にしてようやく決意が固まりました。


永すぎた春でした。


手放すこと、諦めること、この時の選択から運命は変化していったのです。


2015年12月3日

Posted by TAKA