第43回「大学入学後、大学デビューに成功したある青年の話」その2 

実体験・人間考察コラム

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この間スーツパーティーがあったんよ。

先週江ノ島行ってきたわ。夏は海だわ~。

大勝軒って知ってる?この間大学の友達行ったんだけれど、まじうまかったわ。

レンジのライブ最高だったわ~。

軽井沢のアウトレットでラコステ買いまくってきたわ。

豊島園まじ楽しいよ。あれ、お前にこの話したっけ?

    
K君に会う度に決まって出てくる話題は、大学生活の自慢のオンパレードでした。

それも、こちら側から聞いてもいないのにかかわらずです。

高校時代の寡黙なK君はもはやおらず、例えるならば彼の口調は"DAIGO"のような軽快なノリでした。

大学2年、大学3年進級するにつれて、大学自慢のバリュエーションはますます増えて行きました。

決して、法螺話ではなくて、マイカーの走行距離がたった3年間で3万キロを凌駕してしまった数字を見れば、大学の連中と年がら年中ほっつき回っている姿が安易に予想できました。

私と一緒に遊んだ日、たとえ食事中やテニスをプレイしている時でさえも、15分に一度は携帯のメールに没頭しているか、ふいに大学時代の友人からかかってくる電話に断りもなしに出て、当事者同士だけしか共有できない世界に没頭しているのでした。

彼にとっては携帯なしの生活はあり得ませんでした。


忍耐の浪人時代を乗り越えた反動で、大学生活をエンジョイしまくっている様子は端的に伝わってきましたが、彼のその一言一言が、平凡な大学生活を送っている私を見下しているようにも感じられました。


彼と決定的に過ごしている世界の差を感じ取ったのは、私が大学3年、K君が大学2年になって間もない日の出来事でした。

   
高校時代から彼と共通の話題だった「ビートマニア」や、「バイオハザード」シリーズの話題を振った時、冷めた顔でこう言われたのです。


俺もう、ゲームとか卒業したわ。旅行の方が断然楽しいし。
    
 
さらに、彼の誘いでしぶしぶついて行ったカラオケ「ビックエコー」での場面です。


やべぇ、まじテンション上がってきたわ。レンジとキンキ唄うっきゃないっしょ。


今まで見たことがないような変貌ぶりに唖然とし、彼のペースについて行けず佇んでいると、その日二度目の冷ややかな言葉を飛ばされました。


おめぇ、まじノリわりぃわ。しらけるから。



住む世界が別であることを、彼自身から指摘されるつっこみでした。


この時点でK君は私の知る高校時代の面影はほとんどありませんでした。


その日の帰り際に、自身の旅行体験記をブログに載せているから見てほしいとアピールしてきたので、嫌な予感を覚えつつもその晩、K君のブログをチェックしました。

そこで、彼のリアルな交友関係を目の当たりにするのです。

十中八九の記事は、これまで彼が私に幾度となく語り継いできた大学の友人との旅行&放蕩記でしたが、驚いたのはそこに寄せられたコメントの数です。


「K、お疲れ!この間の豊島園まじ楽しかったね」

 「昨日大宮駅に独りで行ったなんてブログに書いてあったけれど、あれC子と一緒に行ったんだろ!」
 
「Kまたカラオケでレンジ唄おうな!」
 
「K~、オールの連続で体壊すなよ。この間セブンイレブンの駐車場で車停めて夜を明かしたらしいけど、風邪引いて体壊さないようにな」

「『私の頭の中のケシゴム』K君と見れて嬉しかったよ」

  
   
10名くらいの見知らぬ人間から、ノリのいいコメントがつけられていました。

今で言うFACEBOOKのタイムラインを垣間見てしまったような気分でした。
    
その中には、高校時代には一切関わりを持っていなかった女子からの書き込みもちらほらあり、まさに私が叶わなかった理想の大学生活を満喫しているようでした。


大学での新しい出逢いに感化されたK君は、すっかり遠い世界の存在になってしまっていたのです。

大学に自分の居場所を見出し、青春を120%満喫しているK君。

大学に居場所を見いだせずに、暗中模索している自分。

完全に別々の道を進んでいました。


それでもなお、私の中ではあの時代のK君との思い出が忘れられずにいました。

私は高校時代から心の時計がストップしていたのです。

一緒に遊んでいても心から楽しめているとは言い難かったのですが、K君とは完全に距離を置くことは出来ませんでした。

 
いつかまたK君が自分を必要としてくれる日がやってくるのではないかと信じて止みませんでした。


しかし、彼は私の期待を完全に裏切るような発言をごく自然に述べてきたのです。

私が大学4年になって、卒業を間近に控えた2月のことです。

K君を含む高校時代のメンバー4人で集まって、高校時代の思い出話に盛り上がっていたちょうどそのタイミングです。

彼以外の誰もが「高校は楽しかった。いいメンバーに恵まれて」と、思い出の日々をを懐古していたその時に、それまで一切話にのってこなかったK君が問題発言を投下してきたのです。


ぶっちゃけ、俺高校生活微妙だったわ。
 
っていうか、高校時代の先生とか同級生の名前ほとんど覚えてないし、むしろお前らそんなに楽しんでいたなんて意外だわ。


逆に何が面白かった?


でも、今の俺でもう一度高校やり直したら違う人生を送れてたかもって思うと切なくなるけれどな(苦笑)


メンバー全員の前で、高校時代そのものを否定してきたK君。
 
今まで私と過ごしてきた時間さえも拒絶されてしまったような悲痛な気分になりました。


続けて彼は、こう述べました。


ってか俺、一生学生がいいわ~。まじ大学卒業したくないわ~。
 
もう三年だし、就活まじやりたくないんだけれど。遊んでたいわ~。


気が付けば彼のペースに切り替わっていて、いつも通りのリア充エピソードを豪語し始めました。

完全に彼のターンです。



静かすぎるほどの深夜、自宅への細道で、独りで歩いている私は久しぶりに号泣しました。


K君は私が知る頃の彼ではなくなってしまっただけではなく、共に過ごしてきた思い出さえも彼にとってはとりとめもない過去でしかなかったかと思うと、悲しくて寂しくて胸が張り裂けそうになりました。

 同時に走馬灯のように流れる彼との思い出。


大学生活を120%堪能している彼でしたが、せめて高校時代の人間と逢っている時くらい当時のモードに戻って欲しかった。


もちろん、彼とは将来に向けて新しい話題を提供したこともありました。

当時得意だったPC系の分野であるシスアド(現在のITパスポ-トの前身)の資格取得を誘ってみたりもしたこともありましたが、勉強の話になると決まって顔が梅干しのように皺くちゃになり、逃避するかのようにかわすです。


俺、無理だわ~。必修16単位も落としているし、まじ勉強とかもう勘弁だわ。ずっと遊んでいてー。


そう語る彼の表情からは、一種の諦めオーラが漂っていました。


彼の生き様は、寓話「アリとキリギリス」に登場するキリギリスの生き様に擬えられるかの生活でしたが卒業が近づくにつれて、このモラトリアムな日常から卒業しなければならない焦燥感から葛藤しているようでした。
   
そんな折、社会進出を見据えたメッセージは、余計なお世話どころか、苦痛のプレッシャーを与えていたようでした。


そして、この頃からK君の生活に新たな変化が訪れるのです。


その3に続く

Posted by TAKA