第41回「大学入学後、変わり果てて行く友人を追って」その6

実体験・人間考察コラム

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大学2年以来、およそ4年ぶりに会うY君の姿がそこにありました。

頬が痩せこけていて、長い間太陽光を浴びていないような蒼白さが際立ちました。

無地のブラックのトレーナーに、ダボダボのイージーパンツを身に纏い、家の中に常駐している姿を彷彿とさせるオーラを醸し出していました。

思ってもみなかった再会の形で私もN君も一瞬硬直しましたが、私達の姿を目の当たりにしたY君こそ愕然としたようで、声を発する前にとっさに扉を閉めようとしました。

瞬時に私達が「待って!」と訴えかけると、Y君は袋の鼠のような表情を浮かべ、バツが悪そうにその場で佇みました。


TAKA氏&N君「久しぶり!」

Y君「・・・・・・ほんと、驚いた。まさか二人がここに来るなんて思ってもいなかったよ。しかもTAKA氏もいるなんて」


突然の訪問に気が動揺していた様子がうかがえましたが、それ以上に覇気のなさが印象的でした。


N君「突然来て驚かせてしまって、ゴメンね。いやぁ、前から連絡してたんだけれど、Yにメールとか返してくれないから、心配になってさ。TAKA氏と相談して直接会いに行くことにしたんだ」

Y君「ホントごめんね。携帯自体あまりいじってないんだよね」
  

TAKA氏「まじで会いたかったよ。話したいこといっぱいあったし」

Y君「そう言ってもらえるとホント嬉しいよ。俺も色々あってさ、TAKA氏とも話したかったんだけれど・・・・・・」

N君「まぁここでの立ち話もなんだから、Y、こうやって久しぶりに高校時代の3人で再会出来たことだし、これからドライブにでも行かない?」
  

Y君と再会できたら、そのままの流れでドライブに行きながら、喫茶店あたりで苦労話を吐露し合う展開を描いていたのです。
 
しかし、この誘いの返答で、Y君との隔たりを痛感せずにはいられませんでした。
 
  
Y君「それはちょっと難しいよ・・・・・・」


否定されることは想定済みでした。

この千載一遇のチャンスを逃すものかと、思いのたけをぶつけたのです。

N君「気持はわかるけれどさ、この後なんか予定あるの?」
 
Y君「用事はないけれどさ、今宅配を待ってたところなんだ。それに出かけるのは……」

N君「だから、Yが出たんだ。でも、せっかくTAKA氏もこんな遠くまで来てくれたんだよ。Yに会いたいから。今は仕事が忙しいの?」
 
Y君「結局卒業してから仕事してないんだよね。たまに大学時代の友達から連絡が来たりするけれど、気まずくて出られないんだ。みんな就職してて、俺だけ親のスネかじって生活してるしさ。」

 
Y君の本音を聞いて、これまで電話やメールをいくらしても通じなかったのも、私達との世界の差を感じていたからという理由が分かりました。

 
ここまで彼が自分語りをしてくれているところからも、後一押しで何とかなるかもしれないという勢いでさらに続けました。


TAKA氏「俺達もまだ就職してないし、将来に対する不安はかなりあるからさ。その辺の気持ちすごくわかるよ」

N君「俺もTAKA氏も大学はうまい具合にいかなかったんよ。俺なんて無駄に留年もしているし。だからさ、Yの気持ち分かると思うんだ。30分だけでいいからさ、行こう!」


お互いの思いをさらけ出した瞬間でした。


Y君「ゴメン。特にTAKA氏には遠くから来てもらって本当に申し訳ないけれど、やっぱり行けないよ」


私達の説得も虚しく、Y君の心を揺るがすことは出来ませんでした。

しかし、Y君は外に出る気はないものの、このまま話には応じるような様子だったため、間を空けずに続けました。


TAKA氏「分かったよ。突然だったし、無理言って悪かったよ」

Y君「ホントゴメンね。でも、また3人で絶対に会いたいよ」

N君「いいんだよ。いきなりだったし。ところでYはいつも何して過ごしてるの?」

Y君「一日のほとんどは家の中で過ごしてる。インターネットかゲームしたりしてさ。そう言えば最近ヤフオクはじめてさ。初めて落札したんだけれど、あれって面白いね。巷で手に入らない限定品のフィギュアとかバラで買えるし、遠方の見知らぬ人と売買のやり取りとか出来てさ。ガンダムのアムロ=レイのモノまね芸人知ってる?ある深夜ラジオで毎週出てるんだけれど、あの声でシモネタとかしゃべっててマジうけるんさ。今度一度聞いてみて」

私生活を意気揚々と話すY君を横目から見て、私は複雑な気持ちに支配されていました。

同級生と話しているというよりも、年下の後輩と話しているような無邪気なノリなのです。

何かの本の一節で、「引き籠りの人間が過ごす空間は、時間が止まってしまっている。だからいつか引き籠りを卒業した時、彼らがどういった年代の人間に近づきたがるかというと、実のところ、引きこもりを始める前の年頃のもとに歩み寄ろうとする」という件を目にしたことがありましたが、Y君の精神年齢は10代後半から止まってしまっているような印象を受けました。


私が知るあの知的で向上心に溢れていたY君は、もはや過去の人になってしまったのでしょうか。

処理しきれない感情を整理するためにも、次の質問に移りました。

 
TAKA氏「ところでさ、バイトもしてないの?Y君は頭が良かったし、真面目だから公務員とか合ってそうだけれど」

Y君「やってないんだ。バイトもいまさらね。大学時代に本屋でバイトしたことあるけれど、合わなくて2か月で辞めちゃった。

家は居心地悪いよ。父親は『いつか、就職したくなる日があるからその日が来るまで待ってるからな』なんて、寛大なこと言ってくれてるけれど、お袋は毎日のように『引き籠ってないで、何でもいいから職に就きなさい!』ってハッパをかけてくるし。

一日でも早く就職しないとなんだけれど、いざセミナーとかハローワークに行くとなるとね。

もう卒業して1年経つし、どんどん社会から断絶されている焦りは常にあるんだけれど、どうすることもできないまま日々が過ぎて行ってさ。公務員講座も大学2年の時に説明だけ受けに行ったことがあるけれど、周りがあまりにもやる気にみなぎってて、それで諦めたんだ。」


N君「でもさ、大学の時に就活とか一切しなかったん?」

Y君
「実際面接とか会社説明会とか受けたことはないよ。実はそもそも就活の前に受けたトラウマがあるんさ。

大学3年の冬に大学の就職支援センターに、進路について相談に行ったら、担当者が最悪でさ。相手はお袋よりちょっと年上のおばちゃんだったんだけれど。その時は周りから『食品業界は不況とか関係なく、収入が安定してるからオススメ』って聞いてたから、その担当者に相談してみたら、『君は性格が暗そうだから、そのままじゃどこの企業に行っても受け入れてもらえないよ』って一蹴されたよ。

就職について甘く考えてたから、ダメージも大きかったけれど、人格を否定されたようで、それも図星だから傷口も深かったんさ。

ますますどうしたらいいんだか分らなくなってさ。結局それから今に至るまで何もせずって感じ。ホント終わってるよね、俺。」



怒涛のように溢れるY君の本音を聞いている私達は、返す言葉が見つかりませんでした。

その7最終編に続く

Posted by TAKA