第41回「大学入学後、変わり果てて行く友人を追って」その7

2015年12月3日実体験・人間考察コラム

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Y君は留まることを知らずに語り続けました。

Y君「暗い話ばっかりでごめん。もう23だし、このままじゃマズイし、親の目も日に日に厳しくなってるから、今度セミナーくらい行ってみようとも思っているんだ。それで、この間初めて就活スーツを青山で買って来たんだ。まだ一度も着てないけれど」

 一瞬だけ垣間見れた希望的観測でした。

彼は卒業後ほとんど家に籠ったまま、社会との接点が失われていましたが、それでも「就職して社会に進出ないとまずい」という危機感があるようでした。

そんな彼の背中を押すために、ここぞとばかりにあの話題を振りました。
  
TAKA氏「高校時代Y君まじ頭良かったし。クラスでいつも1位をキープしてたくらいだし、どんなにテスト勉強頑張っても総合順位ではY君には勝てなかったよね。あの頃あんだけ努力してたんだし、まだ卒業して1年しか経ってないから、まだどうにでもなるよ。」

Y君「確かにあの頃はまじで勉強頑張ってたな~。あんなに勉強してたのも最初で最後かもしれない。

大学に進んでからは、経済に興味もてなかったし、周りの友達も大学院に進んだり、首席で卒業するヤツがいたり、スゴイやつらばっかりだったから自信失ってたよ。

実は大学3年の時、叔父さんが不動産屋やってるからさ、宅建取ればコネで雇ってくれるって言ってるのを聞いて、俄か勉強で受験してみたりしたこともあったんだ。

でも高校の時みたいに、夢中になれなくてさ。全然ダメだった。

TAKA氏は良いライバルだったよね。あの頃が懐かしいな。大学院も興味はあるし、親も金は出してくれるって言ってるけれど、興味があるのは日本史くらいだし・・・・・・」

 TAKA氏「大学院こそ今からでも遅くないよ。俺も大学卒業してから、別の大学の違う学科に進学したけれど、最初の大学で後悔している分、かなり充実していて、良かったって心から思ってるよ。出逢いもたくさんあって人生リスタートを切れたような感覚だよ。

大学は何度でもやり直しが出来るし、環境と出逢い次第で中身が違うって実感した。

それに大学院は大学受験みたいに、英国社の主要教科主体の受験方法じゃないから、どれだけ興味がある学問があるかが合格の要になるんだし、Y君は昔から日本史がずば抜けて得意だったから合っていると思うよ」

Y君「そっかー、確かに俺も経済学部に進んで、離れていった日本史への思いが一層強くなったから、大学院で日本史を学ぶのもいいかも。

院なら研究に没頭できるしね。よっしゃー!!なんかやる気が出てきた!ありがとーー。まずはセミナーだ!」

 
彼の中で、高校時代努力して勝ち取った栄光の実績は今でも顕在しているようでした。

そしてその経験が自分を奮い立たせるための唯一の原動力のようにも感じられました。

Y君が当時の熱い思いを取り戻せたようなので、私たちは再会を誓って彼の元を後にしました。

その晩私達のもとに一通のメールが届きました。

俺は最高の友達を持って幸せです

これまでのわだかまりを吹き飛ばしてくれるかのような一文で、私もN君も感無量でした。

そして、これが正真正銘、Y君と交わした最後の連絡になったのです。

 2014年11月。あれから6年が経ちました。

最後にメールをもらった翌日から、再び彼との音信は途絶えました。

何度電話しても出るのは決まった留守番電話の音声です。

現在は、着信拒否にされてしまったようで、一切彼の現況を知ることも出来ません。
 
あの日、あの姿は風前の灯だったのでしょうか。

この瞬間も家に引き籠って明日を思い悩んでいるのでしょうか。
 
はたや心機一転就職してバリバリ働いているのでしょうか。

実は2010年に私はY君の実家に電話をかけたことがありました。

彼の父親が出て、私達がいかにY君のことを心配しているのかを訴えたところ、

お父さんは鼻で笑いながらこう答えました。

安心してください。息子は今立派に働いていますよ。今日も仕事中なんです。帰って来たら伝えておきますから

私は電話を切った後に、これ以上の詮索は限界を感じました。

そして、お父さんのその言葉を聴いても一抹の不安が拭えませんでした。

それから今日までもちろん彼から連絡が来ることはありません。

全7回にもわたる長編物語をご覧いただきありがとうございます。

大学生活というものは、

「自分らしい"何か"を見つけて羽ばたいていく学生」

「何もみつけられずにそのまま終えてしまう学生」

の2種類に分類出来るという先人の言葉を耳にしたことがあります。

Y君の発言の中からも、後者であったことがうかがえました。

勉強、遊び、恋愛・・・・・・どれだけ自分にとって「かけがえなのないもの」に巡り合えたかで人生は大きく変化します。

夢中になれる何かを見つけられずに、その日その日を過ごしてきたY君は、卒業間際の就活によって初めての挫折を味わったのでした。

自分探しの迷宮に迷い込んでしまったのです。
 
そもそも、「極力楽して名の知れた大学に進めれば良い」というモラトリアム的な考えが発端になっていたのではないかと私は振り返ります。

でも、若いうちは誰でも失敗はありますし、まだやり直しは出来るはずです。
 

傍から見れば、彼を見下して、批判しているだけのように感じられるかもしれませんが、決して他人事ではなく、私自身も大いに共通する点があるからこそ、コラムに綴っています。

機会がありましたら、他でもない私自身の大学体験談をいずれご覧いただければと願います。

2015年12月3日

Posted by TAKA