第41回「大学入学後、変わり果てて行く友人を追って」その5

2015年12月3日実体験・人間考察コラム

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Y君の自宅の前に到着した私とN君ですが、いざ本人の棲家を目の当たりにすると、うろたえてしまいました。


敷地には、6畳くらいの広さのプレハブ小屋と、2階建ての一軒家が隣接されてそびえていました。
第一印象では、人の気配は感じられませんでした。

私がY君の家にやってきたのは初めてですが、高校時代から行き来しているN君によると、Y君の個室は、独立していりプレハブ小屋だと指摘しました。
 
カーテンで覆われていて、外部と遮断されて、自分の世界に籠っているY君の等身大と重なりました。

「さぁついに来たけれど、で、どうするよ?」


お互い共通の思いで沈黙の時間が流れました。
 
しかし、いざ現場までやってきたのに、此の期に及んで引き返すわけにはいきません。

私達は互いの目的を再認識し合いました。


まずは布石として、
 
「Y~、今日卒業式だったんだよね?何時頃こっち(地元)に帰って来るん?」
相手の出方をうかがうメールを送信しました。
 
私たちが彼の家の目の前に来ている事実を突き付けると、無視されてしまう可能性大だったため、第一声は当たり障りのない探りの内容にしたのです。

N君と私は固唾をのんで返信を待ちましたが、15分経っても着信はありません。


それ以前から音信不通の日々が続いていたので、今回もいつものように、スルーされても違和感はないのですが、千載一遇のチャンスを前に、ここで踵を返すわけにはいきませんでした。

「やっぱりメール返ってこないんだわ……絶対今頃卒業生同士で遊びに行ってる真っ最中だって」

再び諦観の見解を示したN君ですが、私は厚手のカテーンで覆われたプレハブ小屋の窓を凝視していると、どうしても彼が息を潜めているようでたまりませんでした。

こうなったら、メールでの駆け引きを止めて、電話作戦に移りました。

数秒で留守番電話に繋がってしまい、私とN君で合計2回ずつかけましたが、応答はありませんでした。
    
結局、Y君と接触することなく撤収することになりました。

 

さすがに事前準備なしに行ったのもあって、呼び鈴を押してまでY君の所在を確認する勇気まではありませんでした。
 
不審な男二人組が長時間うろついていると近隣の住民に捉えられても、おかしくなかったので、切り札の電話が通じなかったことで、これ以上の長居は無用だと悟ったのです。
隔離されたプレハブ小屋の光景が脳裏に焼き付けられたまま、悶々とした思いを残したまま帰還しました。

その晩、N君の携帯にY君からメールが届いたようでした。

「さっきは電話に出られなくてごめん。今日は卒業式が終わってそのまま帰って家で爆睡してました」

やはりY君は、私たちが訪れたまさにあの時間帯、家の中にいたのです。

 
 
もしかしたら、私たちが来ているのも承知の上で、カーテンの奥で私たちの動向を静観していたのかもしれませんが、事実は知る由もありません。
式が終わった後にそのまま帰ってきたらしいのです。
 
そしてメールの最後で、"相変わらず就職先は決まっていない"という現状が付け加えられていたそうです。

  
その日を境に、私もN君も、再び連絡が取れなくなってしまいました。

2006年3月下旬のことでした。

そして、それから1年が経とうとしていてた2007年2月下旬。

 

私とN君はついにY君と再会を果たすことが出来ました。

この1年に及ぶ時間の中で、私は数十回電話をかけ続け、N君もメールを送り続けましたが、たった一度も応えてくれることはあり
ませんでした。


Y君の卒業式に、時を同じくして彼の家に足を運んだ私とN君は、互いに環境が変わっても、Y君の存在を脳裏から拭い去ることは出来ませんでした。
 
あの時Y君が自宅にいたのにも関わらず、携帯電話での間接的な方法でしか接触を試みなかったことに後ろめたさを感じ、長い間引きずり続けていたのだと思います。

私は都内での就職を、N君は、5年間の大学生活にピリオドを打ち、介護施設への就職を間近に控えていました。

 
これからますます疎遠になることは目に見えていたので、社会に進出する前に、Y君と肩を並べられる最後の機会として、再びY君の住むあの場所へと向かったのです。

もちろん今回も事前連絡はないまま彼の家に赴く計画でした。

 
彼が現在社会人として働いているならば無視を貫くわけがないという推測から、必ずあの住処に棲息しているとにらんでいました。
1年前のあの日、私とN君は携帯電話に頼ったまま身を引いてしまったことを反省していたので、今回はすぐに本宅の呼び鈴を押しました。
 
押すまではかなり緊張しましたが、「えーい、ままよ」と博打のような気分でした。

時刻は前回と同様の15時過ぎでしたが、私とN君の想像では、留守であると想定していました。

 
N君によると、Y君は姉が一人いましたが、結婚しており、住まいも別々になっているそうで、親御さんの仕事環境など深い家庭事情までは把握していなかったようなので、留守ではない場合、誰がドアを開けてくるかドキドキものでした。

呼び鈴を押しておよそ1分でしょうが、足音が俄かにドアの方に近づいてくるのが分かると、勢いよく開きました。
  
「Y君の高校時代同じクラスメイトだったTAKA氏です」

ドアが開いた瞬間、反射的にそう答えるつもりですが、予想外の展開が待っていました。

 
なんと、ドアを開けてくれたその張本人こそがあのY君だったのです。

その6に続く

2015年12月3日

Posted by TAKA