第189回「意図された偶然について“ナンパから”」その2

実体験・人間考察コラム

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興奮冷めやらぬ中、私はその夜半、最寄駅にある東急ストアへと向かいました。

実はその少し前に、近所の居酒屋で、女性の店員さんに勢いで連絡先を渡すという猛攻をしかけていたのも後押しして、テンションはMAXになっていました。

目的は食糧配達のためでしたが、「ナンパ」という3文字gs洗脳されたかのように脳裏にこびりついていた私は、気が付けば一人でショッピングをしている女性を目で追っていました。


意識していることほど関係する情報が自分のところに舞い込んでくるようになるといったものである「カラーバス効果」という心理用語がありますが、まさにナンパを強く意識するようになってから、「自分が声をかけたくなるような女性」をおのずとサーチしていました。


その女性は、齢21~22歳くらいで、私よりも少しだけ年上のお姉さんでした。


どうやら調味料を吟味しているようでしたが、周りに他のお客さんもいなく、声をかけるのには絶好のタイミングでした。

徐々に距離を詰めて行くと、心臓バックバックで胸の鼓動が抑えきれなくなりました。

買い物をする姿を振る舞いながら、お姉さんの真横に体を寄せましたが、いざ声をかけようとすると、体がすくんで動けなくなってしまいました。


何を話しかければ良いのかわからない・・・・・・(大汗)。


頭が真っ白になってしまい、その場に立ち尽くすことすら出来なくなった私は、急に恥ずかしくなってその場から走り去りました。


こうして、初めてのナンパは、何も出来ないまま失敗に終わりました。


好奇心:なんでもとりあえず興味を持ってやってみる。
 
持続性:ちょっとくらい失敗してもめげずにチャレンジを続ける。
 
楽観性:何事も「必ずうまくいく」「できるはず」とポジティブに考える。
 
柔軟性:自分の考えに凝り固まらずに、その時その場で対応を変える。
 
危険性:多少のリスクは承知でやってみる。


  
その時の私の思考はまさにクランボルツ教授の指摘そのものでした。

10代の私はたった1回の失敗だけで頓挫せずに、間もなくして渋谷の街にリベンジ挑戦に向かうことになるのです。



1998年にチュンソフトが発売した『街 運命の交差点』というゲームがあります。

渋谷を舞台に、8人の主人公の物語を描いたサウンドノベルと呼ばれるジャンルのゲームです。

8人の主人公達は、性別・職業・年齢・生きてきた環境・状況など全てがバラバラです。

また、8人の主人公達は知り合いでもない他人同士です。


このゲームの特徴は、主人公が取った行動が他人の運命に影響を与えるという要素です。


例えば、Aさんが渋谷の通り道でBさんの財布を拾ったとします。

この時、Aさんの取る選択肢には以下のようなものが出てきます。


1.ネコババする
2.交番に届ける
3.無視する



このような選択肢の中、一つだけを選ぶことになります。


1と3を選んだ場合、女性とデートする為に10万円を財布に入れていたBさんの運命は、以下のように変化します。


財布を落としたと思われる場所をいくら探しても見つかりません。

一縷の望みをかけて交番に行ってみましたが、結局見つかりませんでした。

こうして、お金の無いBさんは片思いの相手に振られてしまい、失恋のショックで家に2年間も閉じこもってしまいました。



いわゆるバッドエンドです。


一方、2を選んだ場合はどうなるのでしょうか。

財布を落としたと思われる場所をいくら探しても見つからなかったBさんは、交番に赴きました。

心優しいAさんの計らいのおかげで、
事なきを得ました。


何気なく選んだ選択肢によって、誰かのその後の人生に影響を及ぼすというのがこのゲームの面白いところですが、私達の人生にも共通しているところがあります。



去年、名古屋のオフ会の帰り道での出来事です。

名古屋駅付近の交差点で愛用の定期入れを落としたまましばらく気づきませんでした。

数十分後に気付き、血眼で探しましたが、時既に遅しで跡形もありませんでした。

祈るような気持ちで、オフ会会場の居酒屋にも電話を入れて探してみましたが、見つかりませんでした。

どうしても諦めきれない私は、最後の手段で、交番に向かいました。

半分諦めかけてはいましたが、やることだけはやっておこうという思いからです。


そして、奇跡は起こりました。

翌日、滞在期間最終日に、親切な拾得者の方が交番に届けてくださったのです。

交番で実物を目の当たりにした時、愛おしさが湧きました。

そして、わざわざ届けてくださった見知らぬ誰かが神のように感じました。



閑話休題です。

2003年夏、私は意を決して渋谷の街に駆り出しました。

時刻は17時を回ったところでした。

もちろん、この場にやってきたのは私一人だけでした。

もはや友人の力に頼らず、自らの行動力で切り拓く他ありませんでした。

夏という季節は人の気持ちを開放的にするものです。

地下の田園都市線から地上に出ると、そこにはおびただしい数の人々が目に飛び込んできました。


今回の目的はただ一つ、ナンパをして可愛い女の子と仲良くなること。

そこが今までとは決定的に違っていました。

そういう気持ちでいると、とにかく私が声をかけたくなるような女性を無意識的に識別していました。

私が条件に掲げていた女性は以下のようなタイプでした。


1.できれば黒髪であること

2.一人で行動していること

3.歳が同じくらい(19~22歳まで)

4.どことなく寂しげな表情がある人



当時の私は、男性慣れをしていないような清純な女性を渇望していたのです。

そのような女性を渋谷で探そうということ自体に違和感があったかもしれませんが、とにかく人の数の多さからして、この街を舞台に選べば、確実に理想の女性と巡りあえそうな予感がしたのです。


私は勢いに任せて、運命の交差点であるスクランブル交差点に向かって歩き始めました。

人は見た目が9割どころか、見た目10割で吟味するナンパという行為を開始したわけです。

さすが渋谷だけに、右を向いても左を向いても可愛い女性がたくさん視界に入ってきました。

途中で、いかにもギャル男と言えるような日焼けに金髪の男性が、さらりと女性達に声をかけている場面にも遭遇しました。

相手からは無視されてましたが、その男性は百戦錬磨だと思われる様子で、全く堪えているような様子ではありませんでした。


歩き始めて10分が経った頃でしょうか、ようやく一人で行動をしている私好みの可愛らしい女性を見つけることができました。

しばらくは後を追い続けましたが、ここに来て異変が訪れました。

声をかける勇気が出ない。

渋谷に到着するまでは、半端ないモチベーションでしたし、成功のイメージをはっきりと描いていましたが、

いざ現実を直視すると、出来ない理由が次から次へと浮かんできて、とてもじゃないけれども声をかけることなどできない窮地に立たされました。


もし、声をかけたとして、素っ気ない態度を取られたらどうしよう。

もし、声をかけたとして、不審者だと思われて、悲鳴を上げられたらどうしよう。

そもそも一度も話したことがない女性になんて声をかけたら良いのかも分からないし、声をかけたとしても、相手にしてくれるはずがない。

声をかけたとしても、周りの人間にとっては、必死に声をかけている自分は痛いヤツにしか見えないに違いない。

ナンパという行為そのものが、下心丸出しだと警戒心を持たれるだろうから、上手くいくはずがない。

相手は駅の方に向かっているし、そもそも見ず知らずの他人と二人で過ごすような時間がないだろう。

出来ない。無理だ。相手にされない。自分には勇気がない。



目の前に、手の届く範囲内にチャンスが舞い込んでいるのに、私はすっかりチキンな男に戻ってしまっていました。

そして、そのまま逃げるかのように私は女性とは反対の道に進路変更していました。

続く

Posted by TAKA