第318回「ドラマ相棒から学んだ孤独と絶望から脱却するヒントは」

2015年12月17日上手くいかない人生予告犯,映画,共通点,season9,8話,ボーダーライン,相棒

 

「ずっと誰にも言えずに悩んでいました」

相談者様が喉元から絞り出すようにしてそうおっしゃっていただけた瞬間、私は心の底からこうお返しします。

「話してくださってありがとうございます。もう一人ではありません」

私という人間を信じて胸の内を話してくださった瞬間、もう赤の他人ではなくなります。

過去のいきさつを聴かせていただいた上で、これからの未来を一緒に考えさせていただける大切なパートナーとも言える存在になるのです。

けれども、ふとこう思うことがあります。

もしも、相談者様が誰にも頼らずにずっと一人で抱え込んでふさぎ込んでいたらどうなっていたのだろうと。

先ほど、その疑問について深く考えさせられるショッキングなテレビドラマを観ました。

それは、ドラマ「相棒」の9作目であるseason9の第8話「ボーダーライン」というエピソードです。

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以下ネタバレ要素を含んでいますので、展開を知りたくないという方はこのまま閉じていただきますようお願いいたします。

相棒は社会問題を題材に扱うことが多いドラマなのですが、今回のストーリーは貧困と雇用問題(労働派遣)をテーマに扱ったものでした。

当時は派遣切りされたネット難民が社会問題となり、年越し派遣村が結成 されて2年目になる歳末の時期でした。

フィクションという設定ながら、決して他人事ではなくて重くのしかかりました。

主人公の名前が「たかし」だったので、思わずドキッとしました。

この話は、奇しくも5年前の今日、2010年の12月15日の21時にOAされました。

視聴率21.2%という高水準であると同時に、番組終了後のネットの反響も凄まじかったようで、YAHOO知恵袋や個人ブログでも多くの感想が寄せられていました。

このストーリーを担当した脚本家の櫻井武晴さんが、2011年の貧困ジャーナリズム大賞2011も受賞するほどの影響力でした。

相棒は殺人事件が発生することから物語がスタートするのですが、この回も例外ではありません。

ですが、根本的にそれまでの展開とは異なるのは、被害者が「社会によって殺された」というテーマです。

以下、ストーリーの要約です。

36歳の柴田という男性がビルから落下して絶命していました。

刃物による複数の傷があったため、何者かに追い詰められて転落死をした可能性が浮上していましたが、疑問点もありました。

胃の内容物がワカメ、パンなどメニューがバラバラで統一感がないことから、杉下警部(主人公)が捜査に動き始めるのです。

捜査を進めるにつれて、柴田という男性が死に至るまで、追い詰められていく過程が判明して行きます。

主人公は、大卒をしたものの、就職困難期を経た男性です。

男は35歳まではやり直しがきくと言われていますが、36歳という設定したところが意図的なように感じました。

正社員になれず、短期間の派遣労働を繰り返していました。

ついにある会社の正社員になれるチャンスをつかむことになりますが、解雇になって白紙に戻ってしまいます。

ここから人生が大きく狂い始めます。

婚約を約束していた交際中の彼女からも、「正社員になれないならば、価値がない」と見限られて、破局を迎えることになります。

実の兄に金の無心で訪ねるものの、呆れられて突き放されてから音信不通になっていました。

寝る場所は派遣先のレンタルコンテナの中という悲惨な境遇。

唯一の居場所も発覚したことで契約違反という形で追い出されてしまい、ネットカフェでのその日暮らしを余儀なくされます。

彼は就職に直結する医療事務の資格を取得しますが、実務経験のなさと36歳という年齢を理由に、次々とはねられてしまうのでした。

しまいには闇の世界にも手を出して、報酬10万円の条件で名義貸しも行ないましたが、すぐに限界が訪れると、「もう、お前に価値はない」と見限られてしまいます。

最後の手段として、生活保護という手段を求めますが、社会保障費削減という国の事情と、担当者の処理能力を超えた相談件数という余裕のなさから、生活保護の受給申請をあしらわれてしまう始末でした。

資金の底が尽きた彼は、試供品と試食品を漁る日々を続けますが、顔を覚えられるなどして、それすら難しくなって行きます。

もはや就職活動どころではなく、その日の飢えを凌ぐのに必死な状況になっていました。

死後、胃の中の中身がバラバラだったのは、そのことが要因だったのです。

会社に裏切られ、婚約者にも裏切られ、家族にも見放されて、行政にも突き放された彼。

生きる希望をなくした彼は、ビルの屋上から身を投げたのです。

 

まさに救いのないような話でしたが、若者の貧困問題を認識するための大きな作品でもありました。

最後の場面で、杉下警部から「彼は自分の絶望ぶりを誰かに分かって欲しかったのではないか」という発言がありましたが、まさに私も同感でした。

誰にも頼れずに、愚痴を聴いてくれる相手もいない孤独というのは想像の域を超えるほどの重圧であるものです。

これはあくまでもドラマの世界の物語ですが、現実世界のどこかでも、絶望に浸りながら明日を見失って孤独に震えている人間が多数存在していることでしょう。

ドラマの中の彼はことごとく自分を否定されるような人間に見切られてきたことで、人間不信になっていたのかもしれませんが、自分の救ってくれる存在、話を聴いてくれる人間をずっと求め続けていました。

もし、彼の一生懸命さや必死に生きている姿をキャッチして一声かけていた人間が現れていたら(それが会社でなくても)全く違う展開になっていた可能性もあります。

今回の話の例では、貧困支援のNPO法人といった民間の組織も相談窓口として存在しますし、無料の傾聴ボランティアのような存在も探せばいくらでも見つかります。

一つの出逢いで人生は大きく崩れますが、一つの出逢いによって大きく人生も好転します。

「もう話しても駄目だろう」と諦める寸前だとしても、「この人ならあと一回だけ話をしてみたい」と思える存在に巡り会えたらぜひ思いのたけを話していただきたいのです。

余裕がなくなると自分のことばかりを考えてしまいがちですが、今回のドラマからは、「人とどう向き合うべきか」という活動の原点を深く考えさせられました。

12月18日追記

映画 「予告犯」 (通常版)

今年の春に公開された予告犯のレンタルが12月4日からリリースされたので、早速観ました。

まだご覧になっていない方が多いと思うので、ネタバレにならないように、最小限なあらすじに留めますが、 この作品のテーマも相棒「ボーダーライン」と同じく格差社会や若者の貧困社会がテーマに掲げられています。

主人公は派遣先のIT企業で正社員を目指していましたが、社長から不当解雇とも言えるような嫌がらせを受け、ついには体調を崩して退社します。 

その後療養生活を2年経て、再就職を目指してハローワークに通うことになりますが、空白期間が長すぎることを理由に面接試験にすら進めずに門前払いを受けることになります。

表社会で不要の烙印を押された主人公は、ネットカフェで新聞紙で作られた頭巾を被りながら動画サイトで実況中継を行い、弱者をこけ下ろすような悪行に及ぶ労働者たちに制裁予告をしながら、暴行を加えるという話です。

ボーダーラインと共通するテーマがあるだけに、魅入ってしまいました。

ボーダーラインと決定的に違うのは、本作は「仲間が存在する」ということと、「他者に危害を与えて犯罪に及んでいく」「知恵を活かして、社会にその存在を顕示して影響を与えていく」点です。

正社員と派遣社員の格差や人々の底知れぬ悪意などをSNSを通して巧みに描いているのは本作の見所でもあります。

その結末は賛否両論があるようですが、ボーダーラインの直後に観ると感慨深いものがありました。

 

2015年12月17日

Posted by TAKA