第370回「『一瞬の迷いが人生を狂わせる』〜日常に潜む誘惑と、関係を断ち切る『想像力』〜」

2026年8月13日

一瞬の選択ミスで、それまで順風満帆だった人生が暗転してしまうことがあります。

極端な例えですが、「違法薬物の使用」などを思い浮かべていただければ、その恐ろしさがイメージしやすいかもしれません。

しかし今回お話ししたいのは、そうした非日常の脅威についてではありません。

私たちの「日常」に潜んでいる人間関係のトラブルや誘惑をいかに予見し、回避できるかによって、その後の人生が大きく変わる可能性があるというお話です。

「もしかして、恋愛依存のテーマかな?」と予想された勘の良い方もいらっしゃるかもしれませんね。

今回は、私が過去に「このまま関係を深めていったら、身を滅ぼすリスクが高い」と直感し、強制的に関係を遮断した、ある女性との顛末をお話ししたいと思います。

■ 真面目な同僚が見せた「別の顔」

その女性は私よりも5歳年上で、会社の元同僚でした。仮に「愛羅さん」と呼びましょう。

彼女は私の部署に後から入ってきた後輩にあたり、中学生と小学生のお子さんを育てる母親でもありました。

仕事での絡みは少なく、口数は少ないもののひたむきに業務に取り組む「真面目な女性」という印象が強かったです。

入社後半年ほどはほとんど会話もありませんでしたが、ある行事の後に偶然二人で喫茶店に立ち寄ったことから、関係が少しずつ変化し始めました。

「たかさんのこと、前から尊敬していたんです!」
「職場で一番素敵な人だと思っていました」

普段の彼女からは想像できないほど饒舌に、ここぞとばかりに私を褒めちぎってくれたのです。

もちろん、私に対して本気で異性を意識して発言しているとは夢にも思いませんでした。

「相手を立てるのが上手な女性だな」と感心したのを覚えています。

当時、私は別の女性への片思いが停滞しており、自信を失いかけていた時期でした。

そのため、私を肯定してくれる愛羅さんの言葉に、男としての自信を少し取り戻させてもらったような、まんざらでもない気持ちになっていたのは事実です。

その後、休憩時間にランチをしたり、仕事終わりに食事に行ったりする関係になりました。

周囲から「あの二人、怪しいんじゃないか」と揶揄されることもありましたが、彼女には家族がおり、何よりあの真面目な人柄です。

「世間で言う不倫関係になんて、間違ってもなるはずがない」と高を括っていました。

■ 密室での違和感と、かき乱される心

そんな二人の関係に決定的な変化が訪れたのは、初めて二人でカラオケに出かけた時のことでした。

食事の後に共通の好きなアーティストの歌を唄いに行こう、という自然な流れでした。初めての密室でしたが、やましい想像は一切なく、あくまで「気の合う同僚」という感覚でした。

しかし、部屋で数曲唄っているうちに、ふと愛羅さんの身体が私の左腕に密着するほど近づいていることに気づきました。

強い違和感を覚えましたが、その物理的な距離感は最後まで変わることはありませんでした。

さらに、店を出ると外は雨。 私が折りたたみ傘を差して駅まで向かおうとした瞬間、彼女はごく自然な流れで私の左腕に自らの両腕を絡め、狭い傘の中に入り込んできたのです。

この瞬間、カラオケの室内で感じた違和感は偶然ではなかったのだと悟りました。

気まずさから、私は一言も話せずに駅まで歩きました。

私の中で「彼女はどういうつもりなのだろうか」という疑念が渦巻く中、当の愛羅さんからは「今日は楽しかったです」という、いつも通りの丁寧で真面目なLINEが届きました。

その見事な二面性とギャップに、私の心は次第にかき乱されていきました。

■ 忘年会の夜、私が下した決断

それ以来、愛羅さんからは頻繁にLINEが届くようになりました。「また会いたいです」という積極的なお誘いもあり、職場で顔を合わせる真面目な彼女とのギャップに、私の猜疑心は募るばかりでした。

整理しておきたいのは、この時点で私は愛羅さんを恋愛対象としては全く見ていなかったということです。

「気の合う同僚」という関係を崩したくなかったのです。

「私からは恋愛対象として見ていませんよ」というサインを暗に伝えるため、私はあえて、自分が片思い中の女性についての悩みを何度も彼女に相談しました。

しかし彼女は、真剣にアドバイスをくれつつも、時折「私があと10歳若ければな〜」と意味深な発言を混ぜてくるのです。

「これは誘われているのか?」と勘ぐりたくなる瞬間が何度もありました。

「会社の同僚であり、相手には家族がいる。一瞬の気の迷いで判断を誤ってはいけない」 私はもしもの場面に備え、常にそう自分に言い聞かせていました。

そして、彼女の真意が測りかねる日々の中、ついに私が「明確に関係を断ち切ろう」と決意する出来事が起きます。

会社の忘年会の二次会。

23時を過ぎ、有志10名ほどでカラオケで盛り上がっている最中、その場にいるはずの愛羅さんから私のスマホにLINEが届きました。

『今日は二人で全く話せなくて寂しかったです』
『この後、二人で遊びに行きませんか?』

瞬間的に彼女の方を見ると、他の同僚たちと楽しそうに談笑しています。

この恐ろしいほどの二面性に翻弄されるのは初めてではありませんでしたが、さすがにこのやり方にはぐっと堪えるものがありました。

0時前に解散した後、私は彼女と合流する……ことはありませんでした。

もし二人で会えば、その後にどのような展開が待っているかは容易に想像できたからです。

■ まとめ:想像力が、未来の悲劇を未然に防ぐ

その日を境に、私は明確に愛羅さんと距離を置くようになりました。

あれから数年が経ち、こうして当時の経緯を振り返ってみても、「あの時、距離を置いて本当に良かった」とつくづく実感しています。

もしあの時、一瞬の気の迷いや寂しさ、性欲に駆られて行動を起こしていたら、取り返しのつかない事態に陥っていたかもしれません。

「考えすぎだ」と思われる方もいるかもしれませんが、「事切れてからでは遅い」というのが私の判断基準でした。

寂しさを紛らわせるために異性の誘いに乗り、結果的にますます孤独を深めてしまったというケースは、男女問わず頻繁に耳にします。

私の場合は、意中の人への片思いが上手くいっていない中での誘惑でしたが、過ちを犯して後ろめたさを抱えたまま、好きな人と向き合いたくはなかったのです。

恋愛が上手くいっている時も、そうでない時も、心が大きく揺さぶられるような選択を迫られる瞬間は誰にでも訪れます。

そんな時こそ、目先の誘惑ではなく「その選択の先にどんな未来が待っているか」を想定すること。

自分や相手のメリットだけでなく、「その選択によって傷つき、悲しむ人がどれだけいるか」という想像力を膨らませること。

それが、自分の人生を守るための最大の防衛線になるのだと、私は確信しています。


投稿者プロフィール

たか
たか
たかさん(公認心理師 )

恋愛や人間関係で悩み、自分を見失っている方に向けた心理コラムを22年間執筆・発信。

メールや通話による1対1の心理カウンセリングは20年以上継続し、累計5,000件以上の相談実績を持つ。

大手ニュースメディア(マイナビニュース等)でのコラム掲載実績多数。

筆者自身、20代から30代前半にかけて「10回連続で片思い失恋を経験する」という壮絶な挫折を経験。
必死なアプローチによる空回りや過度な執着、自尊心の崩壊を自ら乗り越えてきた。

心理学の専門知識(公認心理師・精神保健福祉士などの国家資格)と、実体験に基づく独自のカウンセリング手法を融合。

「相手軸」の執着や過剰適応から抜け出し、ありのままの「自分軸」を取り戻すための具体的なアプローチを提案している。

相手の心理が分からない、過去の未練や執着から抜け出せないと悩む方々へ寄り添い、心の整理と自己受容をサポートする「心の伴走者」として活動中。

【保有資格】

公認心理師(心理職唯一の国家資格)
精神保健福祉士(国家資格)
国家資格キャリアコンサルタント(国家資格)
伴走型支援士
心理相談員
両立支援コーディネーター
ストレスチェック実施者
メンタルヘルス・マネジメント検定 II種・III種