第370回「上手くいかない恋愛を諦めて一時の快楽を選んだ先には」

一瞬の選択ミスでそれまで順風満帆だった人生が暗転してしまうことがあります。

分かりやすい例えで、“覚醒剤の使用”と言えばイメージしやすいでしょうか。


ここでテーマにしたいのは、決して覚醒剤の脅威について論じるためではありません。

日常生活に潜んでいる人間関係のトラブルを予見し、回避できるかによってその後の人生が大きく変わる可能性があるということを私の体験談から論じたいと思います。


勘の良い方は、恋愛依存について展開すると予想されているかもしれませんね。

今回は私が「このまま関係を深めていったら身を滅ぼすリスクが高い」と強制的に関係を遮断した女性との顛末です。



その女性は私よりも5歳年上で、会社の元同僚でした。

名前を愛羅さんと呼びましょうか。
正確には私の部署に後から入ってきた後輩に当たる女性で、中学生と小学生のお子さんを養育している母親でもありました。

仕事ではそれほど絡みはなくて、口数は少ないもののひたむきに取り組んでいる真面目な女性という印象が強かったです。

入社後半年間くらいほとんど会話もありませんでしたが、転機が訪れたのは半年が経った頃で、ある行事が終わった後に、偶然の流れから二人で初めて喫茶店に立ち寄って会話したことから広がりました。

それまでほとんど二人っきりで話したことがなかったのですが、この時の愛羅さんは饒舌でした。


「TAKA氏さんのことを前から尊敬していました!」
「TAKA氏さんのことを職場で一番素敵な人と思っていました」


ここぞとばかりに私を褒めちぎってくるのです。

もちろん、私に対して本気で異性を意識してそのような発言をしているとは夢にも思っていませんでした。相手を立てるのが上手な女性なのだと感心したのを覚えています。

私のことをそこまで肯定的に捉えてくれていたのを知って、まんざらでもない気持ちになります。
当時、片思い中の女性との関係が停滞状態だったのも重なって、男として失われつつあった自信を与えてくれるようでした。


その後も仕事の休憩時間にランチを一緒にしたり、仕事が終わった後に食事に出かけたりするようになりました。
この時の私は、あくまでも気の合う会社の同僚という認識でした。

ランチをしている姿を他の社員に目撃されて、「二人は怪しい関係だ」なんて揶揄されたこともありましたが、相手には家族もいるし、愛羅さんの真面目な人柄を見れば世間で言うような不倫関係には間違ってもならない。

そう信じていたのでそこまで気にも留めていませんでした。


そんな二人の関係に更なる変化が訪れたのは、初めてカラオケに二人で出かけた時の出来事でした。


いつものように二人で食事をした後に、共通の好きなアーティストの歌を唄いに行こうという流れになりました。


初めて二人だけで過ごす密室でしたが、やましいことは想像せずに、あくまでも気の合う異性の同僚という感覚で向かいました。


部屋で数曲唄っているうちに、ふと愛羅さんの身体が私の左腕に密着するくらい近くになっていることに気づきました。

違和感を覚えましたが、その物理的な距離感は最後まで変わらないままでした。


外に出るといつの間にか雨が降っていて、私が持っていた折りたたみ傘を差して帰りの駅まで移動しようとしたところ、愛羅さんはごく自然の流れで私の左腕に自らの両腕を絡めて狭い傘の中に入り込んできました。


この瞬間、カラオケの室内で生じた違和感は偶然ではなかったことを理解したわけですが、その気まずさから一言も話さずに駅まで向かいました。


その日はそのまま解散したのですが、私の中では「愛羅さんはどういうつもりなんだろうか」という疑念が芽生えるようになりました。

当の愛羅さんからは何事もなかったのように「今日は楽しかったです」という見出しの丁寧な文面がLINEで送られてくるのです。
その文章からは、職場で見る真面目な人間像がそこに具現化されていました。

そのギャップから次第に私の心はかき乱されるようになっていきました。


私の動揺とはお構いなしで愛羅さんからは頻繁にLINEが送られてくるようになりました。
内容はたあいもない共通の趣味の話が多かったですが、「また会いたいです」というお誘いの文面も何度か送られてきました。

あまりにも積極的で、職場で顔を合わせる愛羅さんとは見違えるほどですし、一体何のために私と会うのだろうかという猜疑心は募っていく一途でした。


ここで整理したいのは、この時点での私は愛羅さんに対して恋愛対象として意識していたわけではありません。

愛羅さんにはあくまでも気の合う同僚という認識を崩したくないというのが本音でした。

愛羅さんは必ず私を褒めて立ててくれるので、居心地が良かった要素は否めません。
変わらず意中の女性には振り向いてもらえずの片思い中だった私にとっては、心のオアシスになっていた部分もありました。

他方で常に一線は越えてはならないと言い聞かせていましたが、愛羅さん本人の口から「付き合いたい」とか「恋愛対象として好きです」という核心に迫られるような発言はなかったため、筆舌に尽くしがたい悶々とした感情がつきまとっていたのでした。

愛羅さんには「私からは恋愛対象としては見ていませんですよ」というサインを伝えるために、片思いが上手くいっていないことで悩んでいる相談を何度も投げかけました。

毎回真剣に女性の立場として客観的なアドバイスをくれたのですが、時折「私があと10歳若ければな〜」という意味深な発言を混ぜてくることもあり、「もしかしたらこれは誘っているのか」と勘ぐりたくなるような瞬間もしばしば訪れました。

会社の同僚でもあるし、相手には家族もいるので、一瞬の気の迷いに任せて判断ミスをしてはいけない。

もしもの場面で選択を迫られた時に備えて、常に念頭に入れました。


愛羅さんの本心が測りかねるような日々を過ごしていましたが、「この女性とは距離を置こう」と違和感から警戒心へと転換し、決意をしたのが会社の忘年会の最中に送られてきたLINEの内容でした。


23時を過ぎた頃に、会社の有志10名ほどでカラオケを盛り上がっている最中に、その場にいるはずの愛羅さんからLINEが送られてきました。


「今日は二人で全く話せなくて寂しかったです」
「この後二人で遊びに行きませんか?」



瞬間的に愛羅さんの動向を確認しましたが、他の同僚達と楽しそうに談笑していました。
この二面性に翻弄されるのは初めてではなかったのですが、さすがにこのやり方はぐっと堪えました。

0時前の終電の時間に解散したのですが、その後私は愛羅さんと合流・・・・・・はしませんでした。


その後二人で会ったらどのような展開になるのかは安易に予想できたからです。




その日から私は明確に愛羅さんと距離を置くようになりました。


それから数年が経ってみて、こうして経緯をまとめることで改めて当時を振り返ってみましたが、「距離を置いて良かった」とつくづく実感しています。

もしも一瞬の気の迷いや性欲に駆られて行動を起こしていたら、取り返しのつかないことになっていたかもしれません。
考えすぎだと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、成ってからでは遅いというのが私の判断基準でした。

男女問わずに寂しさから異性の誘いに乗って気を紛らわせようとしたものの、ますます孤独が深まってしまったというケースも頻繁に耳に入ってきます。

私の場合は、片思いが上手くいかない中での誘惑とも言えるような場面が重なりましたが、ますます片思いの女性への気持ちが高ぶって行ったのを覚えています。

過ちによって、後ろめたさを引きずりながら片思い相手と向き合いたくはありませんでした。



恋愛が上手く行っている時もそうではない時も、心が揺らぐような選択に迫られる時が訪れるかもしれません。

そんな時こそ、その選択を取ったらどのような未来が訪れるのかを想定し、自分や相手にとってのメリットだけではなくて、その選択によって傷つき、哀しむ人がどの程度いるのかの想像力を膨らませることが大切であると私は思います。

投稿者プロフィール

TAKA
TAKA
恋愛がうまく行かずに、明日を見失っている方に向けてのコラムを20年間発信してまいりました。メールと通話を使った直接対話サービスも10年以上続けております。累計の相談実績は約5000件。
マイナビニュースでも拙コラムの一部を掲載しております。

筆者自身が20代から30代前半まで10回連続片思い失恋を経験したこともあります。

男女の心理が分からない、片思い止まりでどこからどう変われば良いのかさまよわれている方に向けて、拙コラムがお役に立てれば幸いです。


関連取得資格

公認心理師
精神保健福祉士
国家資格キャリアコンサルタント
伴走型支援士
ストレスチェック実施者
メンタルヘルス・マネジメント検定II種III種