第334回「9年間音信不通だった引きこもりの友人から連絡が来た話」
「事実は小説よりも奇なり」という言葉がありますが、まさに自分の身に一つのサプライズが舞い込んできました。
9年間ずっと音信不通だった高校時代の友人から突然電話がかかってきたのです。
そう、第39回コラム「大学入学後、変わり果てて行く友人を追って」に登場したY君です。
彼は高校時代成績が総合1位で、どれだけ努力しても彼にだけは追いつけることが出来ませんでした。
言わば彼はドラゴンボールのキャラクター悟空のようで、私はベジータのように常に背中を追っている良きライバルでもありました。
彼は指定校推薦で進学した大学を卒業してから、2年間就職せずに引きこもり生活を過ごしていました。
その間なんとか2回ほど会うことができましたが、先に就職していた私に対して引け目を感じているようで、連絡しても音信不通になっていきました。
それから彼から連絡が来るまでに、数え切れないくらい電話やメールを送り続けました。
電話の数だけでも300回は超えていたでしょう。
何度電話をかけても決まって留守番電話につながりましたが、それでも私は彼への連絡を閉ざしませんでした。
そんなに連絡をし続けていた人間は彼以外には存在しません。
もしもこの関係が男女ならば、ストーカー行為として警察に相談されていてもおかしくはないでしょう。
いや、男女だけの間柄に限定せずに、たとえ高校時代の友人という昔のよしみがあっても、「連絡しても出ない」という一貫した態度を取っている人間に対して、更に追い続けるアプローチは世間から見ても受容されるものではないかもしれません。
人として許されるか、許されないかと捉えることも出来るでしょう。
ですが音信不通になってから私の中に9年間絶えず芽生えていたある一つの思いが私をここまで後押ししてきたのです。
彼とはまたいつか再会できる時が必ず来る。
現実的に考えれば完全に関係が遮断されている状態で、何の希望も見出だせないのは分かっていました。
携帯に電話すればつながるものの、もしかしたら既に解約していて他人が使っている番号になっているかもしれない可能性も考えていました。
けれども、私の胸の中には、言葉では表現しづらい第六感のような感覚が絶えずあったのです。
そして歴史が動きました。
1週間前の4月23日の午前11時に、私の携帯に着信が鳴り響きました。
実は直前に今年になってから彼に一度も連絡していなかったのを思い出して、ふと彼が元気かどうか気になって電話をかけていたのです。
特別な行為ではなく、ブランクは少しあったものの私にとっては、繰り返しの行動でした。
私の着信履歴を見て彼からの折り返しのような形でした。
表示されている名前は彼のものでした。
突然のタイミングだったので、ドキドキしながら出ました。
通話が開始すると、彼はぎこちない口調でこう発しました。
「TAKA氏君・・・・・・?」
紛れもなく9年ぶりに聴く彼の声でした。
そこからは勢いに任せて空白期間の溝を埋めるかのように質問を投げかけました。
結論だけ先に言ってしまうと、彼は当時のような引きこもりモードからは脱却して、社会人として立派に生活を送っていました。
それも大卒後の2年間無職だったのがウソのように、9年間一つの会社に継続しながら勤めているようでした。
更に驚かされたのが彼の仕事内容で、名の知れた会社の営業マンとしてバリバリ働いているとうのです。
大学時代にはキャリアセンターの就職相談員から、「君のような覇気のない人間は受からないよ」と喝を入れられたことがショックで社会から逃避していたとは思えない変わりぶりです。
仕事は大変だけれども、この仕事は転職だと述べていました。
彼は引きこもり生活が2年目を迎えたある時期に、母親からハローワークの開催する就職相談会に行くように尻を叩かれて渋々向かったところ、現在の会社を紹介されてトントン拍子に決まったようです。
彼の中では、2年間仕事をせずに社会との関係を遮断していたことから、就職なんて出来るはずがないし、仮に奇跡的に書類選考を通過しても空白期間のことを面接官から指摘されたら、一貫の終わりだと戦々恐々としていました。
ところが、現実的には「案ずるよりも産むが易し」とは言ったもので、いざ勇気を出して社会に一歩踏み出したら天職の縁をつかむことが出来たのです。
とは言っても新しい人生を築き上げることに成功した彼にも失ったものがありました。
それは、大学生活までの友人です。
就職後は誰一人として学生時代の友人と連絡を取っておらず、休日も一人で過ごしているようでした(彼は今、独身でした)。
やはり空白期間の2年間のことを負い目に感じているようで、私からの連絡に応えなかったように、友人達との縁を切っていたようです。
ですが、彼は私との縁を再開してくれました。
そして、彼はあれだけ連絡し続けていた私の行動に対してこう述べたのです。
実は連絡してもらってすごい嬉しかったし、励みにもなっていた。
こんなに心配してくれる友達がいてすごい幸せだよ。
私はその一言を聴いて、この9年間が一気に報われた気持ちになりました。
そして、彼の中ではともに過ごした高校時代の思い出が今でも美しいものとして残っており、仕事で気持ちが塞いだ時には、当時の自分を思い出しては鼓舞していたようです。
十中八九の人間ならば、無視しているのに、執拗に連絡が続いたら、迷惑だと思うでしょう。
一つの奇跡と言ってもよいリアクションでした。
私がそれでも彼に連絡し続けて、いつかこうして話せる日が訪れるのではないかと確信していた理由こそ、まさに高校時代に切磋琢磨した輝かしい軌跡があったからでした。
近々彼と再会する計画を立てています。
失われた空白の期間は、新しい思い出へと昇華出来るでしょう。
「過去と他人は変えられない」とは言いますが、あの過去があったからこそ、紆余曲折経て新しい未来を切り拓けたのです。
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