第30回「大学に居場所をなくしたある青年の話」その1
「TAKA氏、俺もう生きてる価値ないわ」
21歳を迎えたばかりの秋に、高校時代の友人のN君が私にこう語りかけました。
「俺もう死んだほうがいいかもしれない」
淡々とつぶやくN君の顔からは、涙ひとつこぼれていませんでした。
悲壮感に覆われながら、ある一点を虚ろな目で見つめ続けていたN君の横顔を今でも覚えています。
N君は私の高校時代の友人です。
高校を卒業してそのまま四年制大学に進学しました。
介護の仕事に就くのが夢だったので、福祉大学に進んだものの、そこに待っていた現実は、理想に描いていた大学生活とはかけはなれたものでした。
N、お前鬱病じゃないの?
もちろんN君は鬱病を患っていたわけではありません。
N君は大学に友達と思える存在が一人もいませんでした。
N君は大学にいる時は常に孤独を抱えていました。
大学に入学して一週間が経過した時点で、「なにかが違う」と気づいたそうです。
やる気のないクラスメイト。
学生=金と認識し、積立金やイベント代と託けて何かと学生たちから金銭を搾取する経営陣。
N君は入学して一ヶ月も経たないうちに、大学の選択ミスを痛感したのでした。
N君はとても心やさしい思い遣りがある青年です。
福祉のボランティア経験も多く、お年寄りと接することを何よりも楽しみにしていました。
ある時、一緒に車でドライブしていて、走行中左脇から左折しようと待機している車を見るなり、運転手の私に、
「TAKA氏ちょっと待って、あの車入れてあげて」
道端にゆっくりと歩いているお年寄りを目にするなり、「おばあちゃん、車に気をつけるんだよ~」と慈愛に満ちた眼差しを注いでいました。
私から見ても、彼は介護職の適任者だと思っていました。
N君の数々のボランティアの現場の話を聞くと、共通して職場の空気は殺伐としていて、人と人とが絶えず攻撃し合っているようでした。
福祉の世界の職員は、圧倒的に女性が多いので、場の空気や派閥についていけない人間は、必然的に淘汰されてしまう雰囲気があるそうです。
そんな人のいいN君ですから、学校に行ってもボランティア先に行っても決まってずる賢い人間に利用されてしまうのでした。
N、ちょっと今日金忘れちゃってさぁ、パチンコ代貸してくんねぇ?5000円でいいからさぁ。
N君、うちの施設が今人手が足りないから君には8人の介護を担当してもらいます。
N君~、もうすぐあの授業のテストじゃん。俺ノート一度も取ってないから、今回だけ見せてくれよ~。
他方、容赦なく浴びせられるN君への罵声。
N、おめぇ最近付き合い悪くねぇ?
N君、君はボランティア生なんだからこちら側の言う通りに動きなさい。自分の勝手な判断は慎むこと。
N君と一緒にいると他の人から変な目で見られるから話したくない。
N君本当は寂しいんでしょ?クスクス。
お前いつも暗くてなに考えてるかわからねぇよ。
心無い一言に傷つき、傍観者の利己主義に振り回され、日に日にN君は高校時代にあったあの輝きが失われていきました。
「本当はいつもこのまま消えてしまえばどんなに楽かって考えてる。
やり直せるならもう一度人生やり直したいよ・・・・・・」
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