第34回「本気で死を選ぼうとしたその先には-片思いから壊れていく心」その5
聞きたくない。でも知らずにはいられない。
正直、彼氏の存在を無視するように努めて彼女と接してきていたのですが、”自分の知らない特別な男の存在”は心の片隅にこびりついて消えていなかったのです。
彼女は結婚は考えられないようでしたが、彼と別れるのには未だに踏みとどまっていたようでした。
実は彼氏は過去に浮気をしていたことがある。
彼への想いは情か愛情かわからなくなっていると耳にした時、自分の中にあった”もう一回の告白”に王手をかけました。
俺がこんなにも傍にいるじゃないか。
俺ならずっと幸せにできる。
なんとも言い難いやるせない衝動に駆られ、一人で頑張って平然を装ってきた彼女の横顔がいとおしくてたまらなくなりました。
これ以上彼女と彼氏の話を聞いているのも、彼女を一人にさせておくのも男として堪りませんでした。
今すぐにでも、また告白をしたい。
あれからしばしの時間が経って、今度こそ彼女にも自分の情熱が伝わってくれていると信じていました。
しかし、前回の教訓も生かしその場の衝動で暴走しないためにも、その場では自制したのです。
家に帰りながらこれまでの彼女との思い出を振り返りつつ、自分の中にある彼女への想いを見つめなおしていました。
これから先どうなるかわからない。もしかしたらもう前の関係には戻れないかもしれない。
前回と違い、冷静に自分の選択を考えられたのは、経験の賜物だったと思います。
それほど二回目の告白の重大さを悟っていたから慎重にならざるを得なかったのです。
あの時は、”まだわからないからこれから”があった。
あれから数ヶ月が経った今、ようやく本当のスタートラインを切ってゴールまでラストスパートの位置に辿りついたと認識していた自分は、自分に出来ることはすべてし尽くした、後はそれに結果がついてくるだけだと覚悟を決めました。
あとは心の趣くまま素直な気持ちを表現しただけです。
三日後に電話という形でしたが、私は彼女に告白をしました。
冷静と情熱の間という映画が数年前上映されましたが、そのタイトルのように、私はストレートに伝えたつもりでした。
俺んとここい。俺と一緒にいこう。その想いを存分に発揮しました。
彼女は分かってくれているはずだ。こんなに深い仲になれたんだから。
しかし、結果は自分の期待を裏切るものでした。
彼女は電話では即答をくれず、それから一週間後、メールで想いを凝縮して私に届けてきました。
TAKA氏の気持ちはすごいうれしい。
こんなに想ってくれたのは生まれてはじめてです。私はすごい幸せもの。
あれから悩んだけれど、TAKA氏とは恋人としては考えられなかった。
彼氏とも距離を置いたけれども別れることが出来なかった。
だからきっとTAKA氏を期待させちゃいけないと思うの。
本当は実際に言ったほうがいいんだけど、難しくて。メールでごめんね。
—END—
1度目の告白の後にはない衝撃でした。
愕然とする他術はありませんでした。
それからまた悶々とした日々が待っていました。
告白をした後の一週間は、永遠のごとく夜も眠れずに携帯を常に片手にとって、待機する時間が全てでした。
いつくるのか。どういう一声で声をかけてくれるのか。これからどうなるのか。
一日も早く結果を知りたい気持ちを抑えるかのように、彼女との過去のメールのやり取りを何度も見直して軌跡を振り返っていました。
正々堂々と立ち向かった。
自分は本当によくやった。
それなのに・・・・・・!
怒り?悲しみ?失望?
待ちに待ったその結果がNOだったから?
たった数行の無機質な返信を考えるのに一週間もかかったから?
このマグマのように煮え滾る心の叫びを抑制することが出来ない。
結局この前と同じじゃないか。
真剣な想いを踏みにじるかのようにたった一通のメールで全てにケリをつけようとして、彼氏ともあれだけ別れる別れる言ってこの言い分か。
これだけたくさんの男を手玉にとって、想い続けてきた自分が惨めでたまらない。
そっちがそういう態度でくるならこっちにも考えがある!!
堪っていた鬱憤は爆発し、そこに残ったのは彼女への激しい恨みとつらみ。
これまで幾度と自分を宥めて抑えてきた本心が理性を制し、怒りの矛先は携帯電話へと注ぎ込まれていました。
もはや時は遅かったのです。
我を見失うほど血が上っていた自分は、彼女に破滅へのメール文を無我夢中で送っていました。
目には目を、歯には歯をでした。
もはや自制心など微塵もありませんでした。
全てを曝け出した今、失うものは何も残ってなかった自分は、覚悟のもと、全てを終わらせるピリオドを”メール”でオウム返ししたのです。
我慢していた分、彼女に対する不満は相当なものでした。
「煮え切らない態度をしていると人は去っていくよ」
「これからは彼氏がいるのに他の男とは会わないでくれ」
「思っていることは直接言わないと後々相手を傷つけることになる」
自分は彼女のたった一人の友達に過ぎないのに、自分の満たされない願望を投影させるかのように、自分の苦しみを遠まわしに気づかせる内容を打っていました。
皮肉なことに、それでもまだ自分は”いい人”を演じ続けている。もうさよならを言ってしまったのに。
最後の言葉を送る中でも、私は彼女のこれからを勝手な老婆心で見据えつつさよならメールを合計三通にわたって送信しました。
終わった。これで全てが終わったんだ。でもこれでよかったのだろうか。
熱くなった頭に支配されるまま本文を送り終えた自分に残ったのは、虚しさだけ。
感情の起伏の移り変わりには逆らいようがないのは仕方がなかったのですが、取り返しのないことをしてしまった後悔の念にこの先背負わなければならないことになってしまうとはまだ考えられもしませんでした。
新しい何かが始まろうとしている。
脳裏に浮かぶその正体は漠然としていましたが、彼女との思い出を一瞬にして断ち切った携帯電話を片手に持ちながら、すぐに来るはずのない返信を待ちわびている自分の切り替わりの速さに戦慄を覚えていたのを今でも鮮明に記憶しています。
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