第196回「あなたを必要としている人間は傍にいる」

2015年12月1日上手くいかない人生


中学時代の教師の言葉だったでしょうか。

深く印象に残っている教えがあります。


社会人になると、心を通わせられる心友という存在にはなかなか出逢えなくなる。
だから、一生の友人は学生時代のうちに作っておくように。



実際に社会人になってから早9年が経ちますが、学生時代の人間関係とは別物であることを実感しています。

その決定的な違いは何なのかを考えてみたところ、一つには利害関係の有無が影響している点です。

会社という場は、環境や職種こそ異なれど、働いた報酬としての給料を得るために所属していますよね。

そこに生まれている人間関係は、学生時代のように、好きとか嫌いとか、自分の意思で組めるような集合体ではありません(一部、例外はあるでしょうが)。

相手が自分にとって損か得かで勘定してしまう人間関係も、処世術の一つなのかもしれません。

それらの環境で、生存して行くために、与えられた役割を全うするために、時には自分を演じながら、他人と調和を図りつつも、自分を主張しながら日々闘い続ける宿命があるわけです。

給料は人間関係や仕事のストレスの我慢代とも揶揄されているように、社会人として生き抜いていく上で、会社の人間に自分の弱音や本音を漏らしてしまうことは自分にとって不利になってしまうし、メリットがないと信じている方は少なくはありません。

いつしか偽りの自分を演じ続けることで、本当の自分とは何かを見失っていたり、自分が目指すべき目的地が見えなくなっている方は、この世の中かなりの数存在しているように感じます。


私は、カウンセリング・相談業務を専門としている理由もあって、会社での人間関係や将来について悩んでいる方々の生声を数えきれないくらい聴かせていただいておりますし、職場の同僚達の悩みも多数耳にしてきました。

その蓄積からそう言っている点もあります。

私がこれまで女性率が圧倒的に多い職場で過ごしてきた点もありますが、集団社会で働く女性達こそ、本音と建前を切り替えながら気丈を振る舞って仕事を全うしている様子を肌で感じています。


先日も、同僚の20代女性の生声を聴かせてもらった機会がありました。

今回このコラムを描くきっかけにもなっています。

いつもは持ち前の明るさで、「考えるよりもまずは行動で切り拓こう」という能動的な彼女なのですが、その日の様子は終始異なっていました。

席が近い私としては、これは間違いなく何かがあったなと思いましたが、彼女はその理由を口にすることなく、むしろあえて表に出さないように元気を取り繕っているようでした。

かえって心配になった私は彼女に対して、一言だけこうかけました。

「大丈夫ですか?何かあったらいつでも話を聴きますよ」

その言葉を聴いた彼女の表情は微動だにしませんでしたが、一瞬ハッとした表情を見逃しませんでした。

やっぱり何かあったのだろうか。

杞憂ではなくて、確信に変わろうとした次の瞬間には、いつもの彼女の調子に戻って、仕事に没頭していました。

結局モヤモヤが晴れないままその日の業務を終えて帰ろうとすると、例の彼女が話しかけてきました。

「今日は、たまたまTAKA氏さんと同じ方面に用があるので、一緒に帰りませんか?」

彼女からそのような誘いがあったのは初めてだったので、ただ事ではないと思いましたが、断る理由もなく同行しました。

その帰り道、会社から離れると、彼女は堰を切ったように、この日に会社であった出来事をこぼし始めました。

要約すると、彼女は自分だけ会社内で浮いているのではないかと、その日の会議中に強く感じたようでした。

保守的な上層部のやり方が逆鱗に触れたようで、つい抑えきれずに感情的な発言を飛ばしたようで、とても後悔している様子が伝わりました。

彼女はふと足を止めて、円らな瞳で、こう訴えました。

「このままモヤモヤした気持ちでは、帰宅出来ないので、近くの喫茶店で話を聴いてもらえませんか?」

私は、自分で話を聴くと言った手前、そんな彼女の気持ちを汲み取りながら、ひたすら話を聴き続けました。

彼女は矢継ぎ早に、社内での不満や、自分が感情的になってしまう習性があることで、その都度自己嫌悪に苛まれていることを吐露していました。

彼女がここまで自分の弱い部分を見せてくれるのはもちろん初めてでした。

会社という場では見たことがない、包み隠さない彼女の姿が目の前に映っていました。

彼女は時折号泣しながら、

「こんな自分ではいけない」
「でも、こうして弱音を吐かないと、精神を保っていけない」

という胸の内を明かしてくれました。


私は、ただただうなずきながら、耳を傾き続けました。

終始沈黙を貫いたわけではありません。

場面場面で彼女がいかに職場で頑張っていて、自分自身も救われているかを具体的に伝えていました。

そうしてあっと言う間に2時間が経った頃、彼女は嘘のように表情が明るくなって、最後にこう述べました。

「会社では、なかなか本音を話せる人間がいないので、本当にありがたかったです。これで家庭に帰れます(^^)」

彼女はまた会社でいつも目にしているような屈託のない笑顔を浮かべながら岐路に着きました。


えっ?その後彼女と恋愛関係に発展したのかですかって?


残念(?)ながら、それはありませんでした。

彼女は既婚者で、既にお子さんもいるので、家族が待つ自宅へと戻って行ったのです。

家に到着する頃には、母親の顔に切り替わっていることでしょう。

彼女とは翌日から、職場内でもそれまで以上に忌憚なく意見を交わせるようになりました。
 
学校、会社、家庭、誰もがその場その場の顔を持ちながら、様々な他者と交わりながら生活を送っています。

もしかしたら、みなさんの周りにも、一見何の問題を抱えていないように思えても、心の底で誰にも言えない孤独や不安に震えながら必死に生きている人間がいるかもしれません。


いつもと違う一面を垣間見ることがあったら、思い切って、

「大丈夫ですか?心配しています」

というアイメッセージを発信してみませんか。

私はあなたの味方です。あなたの良いところを知っています。話を聴きますよ。

そう伝えてくれる人間が傍にいるだけで、どれだけ救われることでしょうか。

そこには、会社や学校という所属を超えた、人と人との心のつながりが存在しているはずです。


もしかしたらその先に、恋愛関係だけではなく、一生のうちで大切な心と心の触れ合いにつながるような縁が待っているかもしれません。

2015年12月1日

Posted by TAKA