第134回「私も忘れることができない過去を背負って生きています」その3
人に本音を話すことって、こんなに心が楽になるものなのか。
中2の運動会当日、私は多目的室で、担任の先生と向かい合わせにして座っていました。
窓の外は晴天の下で、快活なアナウンスとともに順調にプログラムが進んでいます。
私がなぜ運動会に参加せずに、こんな密室で先生と二人きりで座っているのか。
傍から見れば、シュールなシチュエーションです。
私が運動会を前に怖気づいてしまい、一人だけ教室に残って泣いていたところを見つかって、ここに連れてこられたのです。
室内では、一心不乱に私は泣き続けていました。
先生は、私が泣き止むのをただ黙って待っていました。
私は、張り詰めた空気の中、
ついに、先生に胸の内を話さなければならない時がやってきた。
と、次第に冷静になって悟っていきました。
30分くらい経ったでしょうか。
涙も枯れてて、私が開口するのを待ち続けていた先生に、私は意を決して、これまでの苦しみを口に出しはじめました。
ここで正直に吐露しないと、色んな意味で、次に進めないと思ったからです。
どのくらいの時間が経過したのかは分かりません。
堰を切ったように、私はこれまで辛かった数々の過去を吐きだしていました。
先生は、真剣なまなざしで、ひたすら聴いてくれました。
中学に入学してから初めて湧いた感覚でした。
まるで、魂が解放されていくかのような安らぎを覚えました。
私には、同情は要りませんでした。
ただただ、心の叫びを受け止めて欲しかったのでした。
先生はありのままの自分を受け入れてくれる。
それが、分かると、溜まっていた膿を全て体外に放出していました。
事の顛末を聞き終えた後、先生の勧めもあって、私は途中から運動会に参加しました。
ここで逃げるわけにはいきませんでした。
きっと泣きすぎて、目は腫れていたと思いますが、同級生の前ではプライドがあったので、「体調不良で保健室で横になっていた」というとっさの言い訳を説明するつもりでしたが、誰しも気に留めていなかったようで、姿を消していた理由を聞いてくる同級生はほとんどいませんでした。
自分が思っていたよりも、他者は人のことを気にしていないことを知りました。
その夜は、出すものを出し切った爽快感からか、久しぶりに熟睡できました。
それから、私の中で確実に何かが変わりはじめました。
あの時、心の叫びを先生が受け止めてくれて、心の澱を消化できたことから、吹っ切れたのです。
今の自分でもいい。
こんな自分でも否定せずに、向き合って寄り添ってくれる大人がいるんだ。
そう思えるだけで、孤独に埋もれそうになっていた自分が救われました。
中3になると、私の言動に変化が見られました。
あれだけ馬鹿にされていた自分の運動神経が悪いことを逆手にとって、自虐ネタに変えてみたのです。
体育の授業でぎこちない動作を笑われていたのですが、当時流行っていたミスタービーンの動きモノマネに準えて、自分のレパートリーにするようにしました。
小学1年のように、もともと人を笑わせるのが好きだったので、クラスメイトが
「TAKA氏って本当に変わっていて面白いよね。まじ大物になるよ。」
と、認めてくれるようになったのです。
そこに以前のような悪意は感じられませんでした。
こうなったら、誰にもマネできない変人キャラを作ろう、とまで気持ちが変化してきました。
それからというものの、モノマネ、ボケ、つっこみ等、色んなパターンを編み出して周囲の笑いを取ることで、自己肯定感を高めていきました。
極めつけは、合唱コンクールの指揮者に推薦で選ばれたことです。
多数決で決めるのですが、なぜか自分が選ばれました。
満場一致で決定されたので、抗う術がありませんでした。
そこに中2の時に、徒党を組んで個人攻撃された同級生達のようなまがまがしさは感じられませんでした。
「指揮者をするのならば、TAKA氏しかない」と、みんなが異口同音に温かい言葉をかけてくれました。
「人に認められることは、こんなに気持ちよくて温かいものなのだ」と、恥ずかしながらも受け止められました。
嫌な気持ちがしなかった理由として、案外自分は自己顕示欲が強かったことに気づきました。
こうして、中2の運動会の出来事を転機に、残りの中学生活が180度変わったのです。
◆高校編
高校に進学すると、大半が誰も自分のことを知らない人間の集合体だったので、最初から自分の持ち味を前面に出しました。
第一印象が肝心だと、少ない経験から感じ取っていたからです。
成績も中学時代とは打って変わって、クラスで毎回上位に位置するようになり、少しずつ中2までの停滞期から、自己改革されていく様子を実感していました。
クラスのまとめ役を任される場面もあり、たくさんの友達にも信頼されて、初めて彼女もできました。
学校の成績も好調で、私にとっては高校時代は最も輝いていた青春の一ページでした。
しかし、再び歴史は繰り返すようになります。
三つ子の魂百までのように、人間の本質というものはそれほど変わらないものなのかと、何度も自己嫌悪に陥るようになります。
高校卒業後に、都内の大学に進学した私に二度目の暗黒時代が待っていました。
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