第106回「恋人が出来れば恋愛コンプレックスが解消されるのか」その3

上手くいかない片思い


これまでは、恋愛コンプレックスを抱えていた、彼女いない歴=年齢の高3男子S君が、出会い系サイトで知り合った一つ年下の女子高生Cちゃんとの展開を描きました。

人生初のデートにこじつけて、花火大会デート後に告白した結果、見事にOKをもらえたS君が、ある目的のためにCちゃんを自宅に誘ったところまでを辿りました。


その後の展開を一気にお話します。


自宅につくと、S君は冷蔵庫から予め準備しておいたジュースを用意すると、自分の部屋で、まな板の上の鯉のように待っているCちゃんに差しだしました。

一息ついたところで、S君は興奮を抑えながら、Cちゃんに語り始めました。


今日は本当に楽しかった。

俺はCちゃんと付き合えることになって本当に嬉しい。

俺は今夜Cちゃんを離したくない。
 

S君は、じっとCちゃんの目をみつめながら、予習した知識から絞り出した口説き文句を放ちました。
 
心臓の鼓動は隠しきれていません。


しばしの沈黙の後、Cちゃんから返ってきた言葉は、以下のものでした。

「わかった。S君とならいいよ」

S君はあまりにもとんとん拍子で事が運んでいたので、自分が一国一城の主であるような優越感に浸りました。

今まで女性と言う未知の存在に、大きな壁を感じていた自分がバカバカしく思えてきました。

いよいよ妄想の世界から現実へと切り替わる瞬間が訪れたのです。


S君はCちゃんの要望から、部屋の電気を消して、自分のベットに寝かしたCちゃんを押し倒しました。

Cちゃんは抗わずにS君に身をゆだねてきたので、S君は脳をフル稼働しながら、ネットや本で頭に入れていた知識を瞬時に呼び起こし、まずはCちゃんの上着から脱がしていきました。

昨日まで寝ていた自分のベットに、Cちゃんが横になっていて、しかも自分がCちゃんを生まれた時の姿にさらけ出そうとしている支配感と興奮から、理性が飛びそうになっていました。

時折触れるCちゃんの肌のぬくもりから、

「女の子ってこんなに柔らかいんだ」

と、初めての感動を覚えました。


ところが、いよいよという時に、そんなS君に予想外の違和感が芽生えました。
 

Cちゃんのブラジャーをはずそうと悪戦苦闘している時に、違和感に気づいたCちゃんが、


「もしかして、S君はじめて?」


と訊ねてきたのです。

S君にとっては、図星なので、動揺を隠しきれませんでしたが、冷静を努めました。

見栄から出た一言で、
 
いや、経験はあるよ、今はずすからね。
 
と、しどろもどろで嘘をついていました。

ここで未経験なことを知られてしまったら、Cちゃんに引かれてしまうかもしれないと焦ったからです。

ところが、言葉が行為に伴っていないため、Cちゃんにはバレバレでした。
 
S君は緊張からか、パニックからか、自らブラジャーをはずせなかったため、Cちゃんが自分の手でブラジャーをはずしました。

下着も含めて全部Cちゃんが自分で脱いで、スタンバイOKの状態に誘ってくれました。

S君が夢にまで見た光景がまさに広げられているわけですが、なぜか気持ちは冷静でした。


本当にこのままこの子と初体験を迎えて良いのだろうか。


ここにきて、俄然S君の中で、大きな違和感が芽生えました。

Cちゃんの裸体を目の前にして、
 
「キスしたいとか、Hしたいとかいう」
 
欲望が失せたのです。
 
それどころか、直前になって、このまま先に進んではいけないような克己心に駆られました。

そんなヤキモキしているS君の姿を見て、Cちゃんは、
 

「やっぱり、はじめてだったんだね」
 
 
と、どこか冷めた表情で言葉をかけました。

S君は複雑な気持ちのままで、

「ここまで来たら後には引けない」

「今ならまだ取り返しがつく」
 
という葛藤の狭間で戸惑っていました。


Cちゃんはその様子を察したのだか、ついに愛想を尽かして服を着直し始めました。
 
何も言えないS君をよそに、着替えが終わった後、


「今日は楽しかったよ。もう遅いから帰るね」


さらりと言い残し、すたすた家を出て行きました。


上半身裸だったS君は、脳を切り替えて、

帰り道分からないだろうから、送っていくよ。
 
とフォローを入れましたが、Cちゃんは反応せずに部屋を後にしました。


S君は一人残された自宅で考えました。

自分が夢にまで見ていたチャンスが目の前に訪れたのに、どうして乗り気になれなかったのか。

Cちゃんがベットに横になってから、Hモードに移るまでの展開に慣れているように感じたからというのも理由の一つだけど、実は自分はCちゃんのことを本気で好きでなくて、ただ性欲の赴くまま行動してきたのではないか。

S君は寸前になって、「初体験は本当に好きな人でなければ後悔する」と悟ったようです。

その後CちゃんとS君はどうなったかと言うと、翌日にCちゃんから一通のメールが届いた後に関係が終わりました。


「もうS君とは逢いたくありません。今までありがとう。さようなら」


S君はその一文をみて、虚無感しか残りませんでした。

ただただ虚しさに覆われていました。

そして、ある予感を胸に、Cちゃんと巡り会えた出会い系サイトにアクセスすると、20分前の書き込みで、Cちゃんが当時のままのハンドルネームで募集をかけていました。

「高2の女子です♪今、めっちゃ恋がしたくて、彼氏募集中です!

Hも好きなので、仲良くなったら楽しみましょ(#^o^#)」


当時、自分が目にしたプロフにも、「Hも好き」という一文が加えられていたのでした。

Cちゃんは相当Hの経験があるのだろう。

未経験の自分をすぐに悟られてしまったし、自分といる時も、頻繁に携帯メールを打っていたけれども、きっと別の男だったのだろう。

Cちゃんに裏切られたような気持ちや、昨日まで自分の傍にいたのに、実は何もCちゃんのことを知らなかったと思うと、S君はこれ以上縋って連絡を取りたい気にはなりませんでした。


S君はこの経験から、性欲を満たすために出会い系サイトを利用していた自分を再認識しました。

現実の世界で女性に話しかける勇気がないからって、オンラインの世界に逃げてはいけない。

こんな虚しさはこりごりで、これからは、たとえ傷ついても、上手くいかなくても、心を通わせられる女性を見つけようと決意しました。

人間そうすぐに変われるものではないとも言いますが、S君はそれから好きな女性が現れて、振られたり、相手にされなかったりと散々な片思いを重ねましたが、3年後に、一人の女性に告白されて付き合うことができました。


S君は当時を振り返って、次のような言葉を述べていました。

「あの時、恋愛コンプレックスをなくすために、自分の気持ちに嘘をついてまで好きでもない女性と結ばれなくて本当によかった」
 
と。

その後一人の女性を心から好きになれたことから、そのような思いに気付けたのでしょう。

S君の背中からは、忘れかけていた大切な気持ちを思い出させてもらうのでした。


Posted by TAKA