第32回「大学に居場所をなくしたある青年の話」その3
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N君は、大学を辞める選択を選びませんでした。
「もう大学3年になったんだから、あと1年我慢すれば卒業じゃないか。今までの学生生活は何だったんだ。そのくらいで苦しんでいたらこの先やっていけないぞ。それに辞めてどうするつもりなんだ」
核心を突いているだけに、N君は何も言い返せなかったそうです。
学生という身分から、学費を筆頭に経済的に親のバックアップを受けているN君は、入学金から授業料までこの3年間費やしてきた数百万の大金を犠牲にすると思うと、自分の言っていることが、我儘や甘え以外の何物でもないと悟ったようです。
それに、大学を辞めた後の進路など想像出来ずに、待っているのはフリーター生活という厳しい現実でした。
N君はそれからあの場所に戻り、同級生のからかいやイジりの対象になりながらも、学校を休みがちになることはありませんでした。
そんな漫然としていた日常に、大きな出来事が到来しました。
月日は流れ、大学四年になり就職活動も本格化しようとしている最中に、N君の携帯に着信が響き渡りました。
「お~いN、久しぶりだなぁ~3年ぶりくらいか、俺のこと覚えてる?」
電話の相手は、N君が1年生の時に、"自分の求めていたものと何かが違う"という理由で入学してわずか半年で退学した同じ大学の元同級生でした。
その彼は大学を辞めたあとすぐに、民間のサービス業にフリーターとして就職し、それから二年半かけてコツコツ働き続けた結果、現在では正社員として多忙な日々を過ごしているようでした。
そんな彼でしたが、たまの休日に携帯のメモリーの整理をしていたら、N君のメアド、電話番号が目に留まって、忘れていた大学時代を思い出したそうです。
N君は彼に、以前の自分を投影したのかもしれません。気になっていたあの質問を投げかけました。
「大学を辞めて後悔していない?」
彼は即答で、こう答えました。
電話を終えて、N君は複雑な思いに駆られました。
義理で大学に通っている惰性の日々とは裏腹に、勇気を出して新しい一歩を踏み出した彼がうらやましくて仕方がなかったそうです。
それからもN君は日に日にマイナスの感情に支配され、肝心の就職活動の前に尻込んでしまいました。
私はN君の苦しみを、ただ話を聞くことでしか受け止めることが出来ませんでした。
そんな彼に更なる試練と逆境が押し寄せてくるのです。
自業自得と淡々と話すN君ですが、過去の怠慢のツケよって単位不足よる留年が確定してしまったのです。
私がN君の一連の過程をなぜコラムに書こうと思ったかというと、N君の一部始終は、決して人事ではなく、きっかけや出会いによって彼のような境遇に足を踏み入れる可能性がどこにでも潜んでいるからです。
もちろん毎回話を聞いてきた私にとっても、他人事ではなく、類似した生活を過ごしていたというのもありました。
ディスカッション
コメント一覧
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リアルの世界では絶対に人に声なんかかけられない私ですが、コメントさせてください。ブログの続きが気になりました。これからも更新を楽しみにしています。風がだんだん冷たくなってきました。私のブログにも足を運んでくれると暖かくなりそうです。
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初めまして?昔は普通の専業主婦だった富美と申します。こうやって知らない人とコミニケーションできるのっていいですよね?これを機会に、仲良くしていただけると幸いです!でわでわ?