第337回「恋愛が上手くいかないから火をつけるという犯行の裏から浮かぶ劣等コンプレックス」

実体験・人間考察コラム劣等感,劣等感コンプレックス

なんで自分だけがこんな不幸で惨めなんだろう。

同級生は家庭も持って正社員として順調に仕事をこなして、年収も上がっているのに、自分は未だに独身で非正規雇用の職場から脱却できずに、年収も一向に上がらない。

一体、どこで道を誤ってしまったのだろう。

自分はもうこんな年だし、もう今からやり直すことなんて到底出来ない。

つい先日30代の同級生O君がぼやいていた心の叫びです。

年齢を重ねるにつれて、他者との比較から、「人生はもうやり直せない」という絶望的な気分に駆られることも珍しくはありません。

自暴自棄になった挙句に、やりばのない思いや鬱憤を自傷行為に移す人間もいれば、社会にぶちまけてしまうようなニュースを毎日のように耳にしています。

恋愛がうまくいかずイライラしてバイクに火をつけた」という見出しの内容を知ったのはまさに今日のことです。

31歳の女性が職場の後輩との飲み会(女子会)でお決まりの恋愛トークになったことが起因しているようです。

後輩の話を聴いているうちに、別れた彼氏とのことをフラッシュバックしたようで、イライラが募って帰り道に愚行に及んだとのことでした。

痴情のもつれや恋愛が絡むような事件は、加害者の男性率が多いので、今回は女性という面に注目して記事にした部分もあります。

この女性の自宅の傍で、3年前からバイクや自転車が燃やされる不審火事件が10件発生しており、この女性が8件自分が行ったものだと認めているようです。

つまり、今回の1件は初の出来事ではなくて、もう数年も前から連続して犯行に及んでいたようです。

過去の犯行に至る動機の詳細が書かれていないため、憶測での話になりますが、今回に関して言えば、自分よりも年が若いと思われる(20代でしょうか)後輩女性の恋愛が上手く行っている話を聴いているうちに、「なんで自分だけがこんなに惨めなんだ」という劣等感や孤独感に苛まれてしまい、一人になった際に、凶暴な自分が表出してしまったのではないかと推測しました。

元カレに未練があったのか、どのような別れ方をしたのかまでは想像の域に留まりますが、30代・未婚というステータスは、本人にとって相当なストレス要因であったのではないかとイメージしました。

敏感な心を外部から刺激されるような出来事が重なるごとに、火を放つことで心を慰めてきたのかもしれません。

劣等感や孤独感、焦燥感というものは、目に目るものではなくて、他者との比較等によって自分自身が内面に作り出した実体のない形です。

自分だけ抱えていた問題が、ふとした衝動で背徳・不法行為に及んでしまった彼女ですが、結末は犯罪者として社会から烙印を押されてしまい、世間からの信頼を失うことになります。

自分の人生を大きく揺るがせてしまうような展開になってしまいました。

彼女は今冷静になって「こんなはずじゃなかった。取り返しがつかないことをしてしまった」と後悔しているかもしれません。

私はこのニュースを聞いて、10年前にある女性が起こした不審火事件を思い出しました。

2006年に長野県諏訪地方で起こった連続不審火事件の犯人、「くまぇり」というハンドルネームでタレント活動を行っていた現在服役中の平田恵里香の話です。

前述した女性と同年代(今年31歳)という点も共通しています。

当時、タレント・グラビアアイドルの熊田曜子さんに日本一そっくりな女性として自称でPRしており、熊田さんにかこつけて「くまぇり」と命名していました。

最初の事件は4月17日未明、女宅近くにあった資材小屋。
5月11日に諏訪市内の中学校体育館。
26日には下諏訪町の自動車修理工場に駐車していた乗用車6台に火をつけ全焼させたほか、茅野市内のアパートの壁を焼きました。

自身のブログで連続不審火の様子を他人ごとのように写真付きで次々とアップしていたところが逮捕のきっかけになった事件でもあります。

 

彼女は犯行当時20歳の若さでしたが、懲役10年の刑に課され、20代の全てを刑務所で服役することになりました。

彼女は当初その動機を「諏訪地方を有名にしたかったから」という理屈を述べていたようですが、事件の判決が下される3週間前に、彼女は自身のルーツや事件の動機等をまとめた手記を公開しました。

直筆の手紙では、後悔の念に駆られた心情が綴られていました。



「私がどうしてあんなことをしてしまったのか・・・。
事件のことは思い出したくないけど。
本当にいたずらがエスカレートしてしまったとしか言いようがありません。
人を殺そうとか、そういう事は一切考えてなかった。
だた自分が楽しければいいや。
自分のわがままでこうしたことになってしまった。
今思うと本当にバカだった。
悔やんで悔やんで悔やみきれない。
時を戻せるなら1年前に戻してやり直したい気持ちで一杯です。
一番楽しみたい20代を刑務所で過ごさないといけない。
なんかもう気がぬけて人生おわったと思っています。
本当人生おわりです。」

諏訪地方連続放火事件【犯人は熊田曜子似のブロガー “くまぇり”(平田恵里香)】より引用


彼女は小学校でいじめに遭い、中学時代には引きこもりで、学校の授業にはほとんど出席していなかったことや、パニック障害を抱えており、17歳からパニック障害を患っており、発作が拘置所で再発し始めてしまい、自殺未遂を犯し部屋がカメラで24時間監視されていたことなどを明かしていました。


不審火という犯行の背景には、彼女の順風満帆ではなかった苦境の半生が影響していたこととがうかがえます。

 

現代社会では競争や比較の連続で、他者との優劣を意識せずにはいられないような場面が多々訪れるものです。


彼女たちはあくまでも特別な例ですが、最初の事例に出てきた「恋愛が上手く行かなかったイライラ」に関しては、形は違えど私達も一度や二度は経験をしているものです。

リア充の人間と比較して、一気に自己嫌悪や怨恨の気持ちが肥大してしまうようなこともあるかもしれません。

劣等感に支配された時、絶望に打ちひしがれずに自信を取り戻すようにするにはどうすれば良いのでしょうか。

ベストセラー『嫌われる勇気』で有名な心理学者アドラーは劣等感について、

「全ての人間は劣等感があることが当然だし、だからこそ頑張れる、恥じる必要はない(優越性の追求)」

と提唱しています。

劣等感と劣等コンプレックスを分別しており、劣等感は「前向きに頑張るエネルギー源」に対して、劣等コンプレックスは「行動で解消することを諦めて、歪んだ心になること」としています。

そして、劣等コンプレックスを解消するための唯一無二の方法として、「行動しかない」と述べ、「大切なのはその不完全さを認める勇気」だと強調しています。

今回登場した二人の女性が犯行に至った背景には、まさに劣等コンプレックスが影響していたのかもしれません。

もしも最初の女性が元カレへの過去の執着から脱却して、新しい出逢いや恋愛以外で自分が輝ける対象を追及し続けていて成就していたら、全く違う結末が待っていたことでしょう。

連続不審火犯の平田さんについても、学生時代のいじめ体験によって生まれた劣等コンプレックスから、放火のブログ中継という誤った行動で自己表現を繰り返していたと言えるように思えました。

服役当初は絶望の淵に立っていた彼女も、獄中生活の中で社会性を身につける中で、劣等感をバネに人生のやり直しを目標に掲げるようにシフトしていったようです。

時が流れ、2014年10月、彼女が間もなく20代の最後にさしかかろうとしている時期に、彼女の最新の獄中手記が発表されました。

この8年間の様子を便箋18枚もの長文にまとめたようですが、3年がかりで高卒認定(大検)を取ったり、職業訓練を受けて、フォークリフト運転や、危険物取扱者、2級ボイラー技士の資格を取得したようです。

他にも、彼女は時事・メディア批評総合誌『』の中で、手描きで自身の服役生活をモチーフにした4コマ漫画を連載しているとのことでした(2015年7月時点)。

服役前にブロガーとして精力的に活動していたように、絵や文章で自己表現することで彼女は自分という存在を世間に示したいというスタンスが伝わってきます。

逮捕当時はもう人生終りだと思い、絶望の淵に居たけれど、捕まらなかったら、今の自分はなかった、出所後も一生罪を償うと決意表明をしています。

彼女の服役が終了するのは今年2016年。

20代の青春全てを刑務所で過ごした彼女ですが、30代から新たな人生を再構築するために出所後の社会人生活に向けてを準備を整えています。

他者との比較による劣等感を持っているのは当たり前。
そんな自分の不完全さを認めた上で、劣等感をモチベーションに新たな自己実現に転換すること。

二人の女性の事件をモチーフに展開しましたが、劣等感について見つめなおす一つのきっかけになれば記事にまとめた甲斐があります。

 

参考リンク

獄中で資格取得…連続放火犯「くまぇり」の意外な現在

諏訪地方連続放火事件【犯人は熊田曜子似のブロガー “くまぇり”(平田恵里香)】

「くまぇり」獄中手記で激白 「本当人生終わりです」

連続放火事件で服役中のくまぇりに8年ぶりに面会した

【アドラー心理学】マンガで分かる心療内科・精神科in池袋 第3回「劣等感は、あっていい!」

Posted by TAKA