第320回「今年サッカー界で大ブレイクした選手の紆余曲折の半生から」
今年のクラブワールドカップで実力の違いを見せたスペインリーグの名門バルセロナ。
私もテレビ観戦していましたが、M(メッシ)S(スアレス)N(ネイマール)のコンビネーションはさすがでしたね。
さて、今回お話する舞台は、スペインではありませんが、同じく人気実力ともに世界最高峰リーグであるプレミアリーグです。
プレミアは、イングランドにある一部リーグです。
今、世界から注目を浴びている一人のサッカー選手がいます。
その名はジェイミー・ヴァーディー28歳。
ポジションはFWで、来月29歳になるイングランド出身の男性です。
所属しているのは、昨シーズン2部リーグから昇格したばかりのレスター・シティというクラブチームです。
日本代表の岡崎慎司選手も移籍したばかりのチームということでも有名です。
12月20日現在、レスターは単独首位。
17試合消化して11勝、5分、1敗と、昇格したばかりとは言えないほどの快進撃を続けています。
その立役者として大活躍をしているのが他でもないヴァーディ選手なのです。
開幕11試合連続11得点というプレミアリーグの新記録を樹立しており、個人成績は15点の得点を残し、ランキングも1位という破竹の勢いです。
まさに一大旋風を巻き起こしている彼ですが、実はその背中からは想像できないような遅咲きの苦労人である過去を持っているのです。
今回はそのシンデレラストーリーのルーツを辿るために、彼のキャリアを遡って紹介して行きます。
ヴァーディーが辿ってきた道のりは、決して平坦ではありませんでした。
むしろ挫折と悔しさを何度も噛みしめて乗り越えて来たのです。
最初の挫折は彼がまだ15歳の時でした。
現在2部の地元クラブでもある、名門シェフィールド・ウェンズデイというユースチームでプレーしていましたが、その若さで努力だけではどうにもならない不条理さを味わうことになります。
「身体が小さい」という理由でクビを宣告をされたのです。
「大好きなチームに居られなくなって、本当にショックだった。最悪だよ。もっと悔しかったのが、追い出されて1か月くらいしてから、急に身長が伸びはじめたこと。20センチ以上も一気にね」
後に冗談交じりでそう語っていますが、当時の思春期では精神的ダメージが大きく、その後8か月もボールを蹴らない時期が続いたようです。
2003年に、当時7部のストックブリッジ・パーク・スティールというセミプロクラブの勧誘を受けます。
7部と8部をさまよっているような小クラブで表舞台とは言いがたいような環境だったので、彼は乗り気ではなかったようですが、関係者に熱心に説得され、同クラブの下部組織で再びサッカーを始めたようです。
そんな彼の意外な一面が垣間見られるようなエピソードがあります。
ストックブリッジ時代にはピッチ外で問題を起こしています。
地元で友人と夜の街へ繰り出した時のこと。
難聴だったその友人が馬鹿にされたのが原因で他のグループと殴り合いの喧嘩になり、暴行容疑で逮捕されたでした。
執行猶予はついたものの有罪が確定し、6か月間、所在がすぐに分かるように足首に電子タグを装着させられました。
いわゆる保護観察処分を下されたのです。
当然、サッカーをしている時も取り外すことは許されずに、夜間の外出を制限されることになります。
試合後には、すぐ帰宅しなければならないという若者にとってはストレスが溜まってしまうような日々が続きました。
ちなみに今年の8月に、レスター市内のカジノで彼は東洋人らしき客に対して、差別的発言を重ねたことで物議を醸しましたが、本人は心から反省をしたようです。
「僕は心の底から自分が引き起こしたすべての侮辱を謝罪したい。後悔すべき失敗で、自分が全責任を背負っている」
このような謝罪文を発表して、同じチームメイトの東洋人である岡崎選手とも直談判をしたことで、雨降って地固まる結末に収まったようです。
そんな彼はサッカー一筋だけの生活ではありませんでした。
炭素繊維工場で働きはじめ、以後8年間にわたって両立することになります。
「身体障害者のための補助器具を作る仕事だった。重たい原料を高熱のオーブンの中に運ぶんだ。その作業を1日に何百回も繰り返す。背中にはつねに大きな負荷がかかってね。身体には良くなかったと思うよ」
そう語っているように、重労働であったことは容易に想像できます。
当時の出場給は1試合30ポンド(約5100円)程度でしたが、サッカーで給料をもらった経験がなかった彼にとっては、大きな喜びだったようです。
決して恵まれた環境ではありませんでしたが、そこで腐らずに日々の鍛錬からストライカーとしての基本を身に着け、しっかりと結果を残して行きます。
そして2010年8月、7部の中では強豪のハリファックス・タウンと契約します。
このタイミングで工場の仕事を辞めて、サッカー一本で生計を立てる決意に至ったようです。
この退路を断って、サッカー1本で勝負をかけたことで、その後の起爆剤になったようです。
サッカーに打ち込めるようになった彼は、1年目からゴールを量産して、チームの得点王&最優秀選手賞を獲得。チームの6部昇格に多大な貢献を果たします。
この活躍ぶりを認められて、2011年8月に5部に昇格したばかりのフリートウッドへの移籍を果たします。
フリートウッドではさらにその勢いを増し、リーグ戦36試合に出場して31ゴール、17アシストを記録。得点王と年間最優秀選手という記録を残します。
こうしてチームを優勝とフットボールリーグ2(4部相当)昇格へ導きました。
この功績が認められ、2012年5月に、5部から2部という大きなステップアップ、異例中の異例とも言うべき現クラブのレスターへの移籍を果たしたのです。
レスターが移籍に費やした金額は、100万ポンド(約1億9000万円)からオプションを含めた170万ポンド(約3億2000万円)と推定され、ノンリーグ(5部以下)の選手の移籍金としては史上最高額となったようです。
1年目こそ26試合で4ゴールと不完全燃焼で、終盤にはベンチを温める日々が続きました。
しかし、2年目には、成長ぶりが形となります。
16得点を挙げるMVP級の働きを見せ、チームを10年ぶりの1部プレミアリーグ昇格へと導いたのです。
初挑戦のプレミアリーグでは、21試合連続ノーゴールとスランプに陥った時期もありましたが、終盤戦にかけて調子を取り戻し、ラスト10戦では4ゴール4アシストと確かな結果を残しました。
こうした努力は念願だったもう一つの夢を実現させることになります。
今年5月にイングランド代表初招集を受け、6月には15分ほどの出場時間でしたがついに国の代表としてのデビューを果たしたのです。
この劇的な活躍ぶりによって、移籍市場での人気も急上昇。
現在では、同リーグの強豪リバプール、トッテナム、そしてスペインリーグの名門レアル・マドリーなどのビッグクラブが興味を持っていると言う話題に出ています。
そして、彼が巻き起こした一大旋風はサッカー界だけに止まりません。
3年半前までセミプロだった28歳の半生を描いたハリウッド映画化の話も出ているようです。
ちなみに、主演候補には、レオナルド・ディカプリオやマット・デイモン、ライアン・ゴズリングなど超有名俳優の名前が挙がっているとのことでした。
これだけの波乱万丈のサッカー人生を送った選手は他にいたでしょうか。
ベストセラー『置かれた場所で咲きなさい』のテーマであるように、彼は自分の与えられている環境に不平不満をぶちまけて堕落せずに、努力に努力を重ねて着実にステップアップして来ました。
年齢的にもアラサーの28歳というと、サッカー界ではキャリアのピークとも呼ばれる時期でもありますが、彼の場合は遅咲きの春のようにこれまでの下積み生活が形になっています。
日本代表の岡崎選手は彼の存在を良き相棒と絶賛しているように、チームメイトからも愛されている存在です。
30歳間際になっての一大ブレイクですが、これからも新しい挑戦を重ねて行く彼の人生から目を離せません。
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