第157回「失敗してよかったぁ」

上手くいかない人生


失敗してよかった。



何らかの挑戦をした後に、すがすがしい気持ちで素直にこう思える人間は少ないのではないでしょうか。


失敗することでプライドは傷つき、周囲には冷ややかな目で見られて、大切な相手との関係に亀裂が入るとすれば、何も起こさずに現状維持を続けた方が楽なのではないか。


10代後半の大学生2年生の頃まで、私は常にそう思っていました。
 

私はいつも他人と比較しては劣等感に苛まれる日々を過ごしていました。

「大学生活=彼女」という幻想を抱いていた私は、大学に入りさえすれば、自動的にそういう流れになるのだとばかり想像していましたが、現実は違いました。
 
テニスサークルの新歓コンパや、学科の打ち上げ飲み会等に参加して、何人か気になる女子と連絡先を交換することまではできましたが、個人的に逢ったり、メール以上の間柄には進展出来ませんでした。

「絶対彼女!」という強いモチベーションと勢いがあって、アプローチを試みてこられたのですが、しだいに意気阻喪していくのです。

自分が気になる女性は、他の男性からも言い寄られているもので、まず相手にされない門前払いの連続から、無力感を覚えるようになっていました。
 

大学1年の夏になると、それまで彼女がいなかった同級生のうちの数人がカップリングし始めます。

自分の願望をいち早く実現した彼らから、自慢話を聴かされたりして、ますます劣等感が強くなりました。


時を同じくして、サークルの中でも、同級生の女子と先輩ができている既成事実を知ることになります。
 
自分の知らないリア充の世界を脇目で見て、居場所を失っていくようになっていきました。

自分のような恋愛経験がほとんどない人間には、勝負する前から勝ち目がないと諦めるようになっていたのです。


あっという間に1年が経ち、恋愛に縁がないまま、新しい行動を起こすこともなく大学2年の夏を迎えていました。

このまま何も起こさずに、残りの2年間が過ぎていくのだろうと、既に絶望の淵に立たされていました。


そんな私の思考を転換させる大きなきっかけが訪れました。


「大学生活で何かこれだけは頑張れたという体験はありますか」


夏休み直前に、母校からリクルートに就職したOBが、学内の就職フォーラムにて投げかけてきた言葉です。


「大学生活には2通りの生き方があります。

一つ目は何かを残せた人、二つ目は何も残さないまま卒業した人です。

実は大半の学生は形を残せないまま、何となく4年間を過ごして就職するのです。

でも、いざ就職した時に、“何かこれだけは頑張った”という体験がある新入社員は強いんです。

逆境に陥っても、腐らずに、自分を信じて乗り越えられる。

みなさんには残りの大学2年間でぜひその“何か”を見つけてから社会に羽ばたいて欲しいのです」


この言葉はあまりにも衝撃的でした。

大学入学後、これほど私の胸に響く言葉は他になかったのです。

まさに当時の自分は、このまま行ったら、「何も残らないまま大学を卒業してしまう組」に属することが内定していました。


自分が大学生活で残せた物は何だったのか。

自信をもって、「これだ!」と誇れる体験は見つけられませんでした。
  
このままで良いのだろうか。
何のために大学に入学したのだろうか。

将来への自問自答が堂々巡りしていた時でした。


気づけばもう大学2年の夏。

何もしなければあっという間に時間が過ぎていってしまう。

大学1年の夏、サークルでの居場所を失ってからは、外部との関係を遮断して、地元で引き籠りの日々を過ごしていました。


このままで終わりたくない。


この日を境に、私の中の眠れる獅子が目覚めました。

フォーラムが終わった後に、学科の同級生と一緒に居酒屋に寄りました。

翌日から夏休みに入り、私は田舎の地元に長らく帰省するため、大学の同級生とプチお別れ会を行いました。

私はあのOBの言葉が脳裏に焼き付いたまま席に着席しました。


そこで、自分を変える具体的なチャンスが訪れました。

ちょうど店員さんがとても感じの良い方で、かわいらしくてまさにタイプの女性だったのです。

今までの自分だったら、「かわいいな~」で終わっていました。

自分なんてはなから相手にされるわけがないと、諦めていました。

ところが、OBの言葉に覚醒していた私は、「この女性と仲良くなりたい」という衝動に目を背けることができなくなっていました。


そんな空気を察したのか、隣にいた同級生が私に、「TAKA氏なら、すぐに彼女を作れるよ」と後押ししてくれたのもあり、すっかりその気になっていました。


こんなに早くチャンスが到来した。

この機を逃したら、後悔する。



私は同級生にお願いして、まずは店員さんとツーショットで写真を一緒に撮ってもらう作戦を実行しました。

店員さんは快く受け入れてくれて、大学入学以後初の気になったかわいい女性とのペア写真を撮影することに成功しました。


小さな成功体験に気をよくした私は勢いに乗って、自分の連絡先を書いた紙を、店員さんに渡しました。

彼女は一瞬驚いていましたが、はにかみながら受け取ってくれました。

たった一回のチャレンジでしたが、ずっとふさぎ込んでいた私の何かが蘇ったようで、しばらくぶりの解放感を覚えました。


結局その店員さんから連絡が来ることはありませんでしたが(振り返れば当たり前ですが)、そういうアクションを起こせた自分を評価できる体験でした。

それから劇的に世界が変わったわけではありませんが、今まで失敗を恐れて何かと理由をつけて諦めていた自分から脱却するべく動き始めました。

まずは行動して、失敗して、その先のことはその後考えるようにすれば良いというふうに切り替わっていったのです。


出逢いが学内にないのならば、外で探せばいい。

帰省前に、渋谷で初めてのナンパを試みてみました(これには相当勇気が要りました)。
 
3時間以上かけてようやく1人だけ声をかけることができました。
 
失われた青春を取り戻すかのように、今までの常識を覆していきました。


そして、夏の終わりまで続けた短期アルバイト先で、初めて本気になれる女性にも出逢えました。

経験がない分、すべてが試行錯誤の連続で、失敗の繰り返しでしたが、私にとってはすべてが新鮮で、振り返ってみれば、「あの時行動を起こして良かった」と、自分を認められました。

挑戦したからと言って、全て結果が出るわけではない。

でも、挑戦しない限り、自己実現は果たせない。


先人が残した言葉を身を持って実感しました。


あれから10年が経とうとしていますが、今でも挑戦と失敗の繰り返しです。

でも、大学入学当初のように、はなから自分の限界を決めつけて、可能性を閉ざしてしまうようなクセはなくなりました。


失敗してよかった。

あの時の経験があったから今の自分がいるから。


そう自分を認められるように、挑戦の連続を重ねています。

一途なみなさんの健闘を祈ります。

Posted by TAKA