第283回「本気で向き合えば世界は変わるという情熱が冷める時」

2015年11月30日上手くいかない人生

「人間、お互い話せばわかる」なんてウソだから。

話せば話すほど言葉にだまされて、ますますわかんなくなる。

だから、「話せば、わかる」じゃなくって「離せば、わかる」だよ、本当に。


タモリさんの名言より

 

今こそ教職員が一丸になって、本気で生徒と向き合うチャンスです。

どんな生徒でも、本気でぶつかれば時間はかかっても必ず思いは伝わります。

だから、心を込めて真剣に指導し続けていただきたいです。


上の3行メッセージは、私が教育実習の時期に、校長に提出した生徒指導改善案の要約です。

当時、生徒たちの制服の着用が乱れていて、指導のために教員たちが日々悪戦苦闘していたようです。

そこで、校長から実習生たちに向けて、若者の柔軟な観点から現状打開策を考えてほしいという依頼が出されたのです。

提出は強制ではなくて、任意だったので、誰一人として手を上げませんでしたが、私はためらいもなく自信を持って書きだしました。

どんな生徒でも、本気でぶつかれば時間はかかっても必ず思いは伝わります。


今改めてみると、その青臭さがひしひしと伝わってきます。

「金八先生」や「GTO」などの教師ドラマの観すぎだなんて感じられた方もいらっしゃるでしょう。

おっしゃる通りです。私も熱血指導に感化されていたところがありました。

白状すると当時の私の教育方針の根幹でした。

世間知らずで怖いもの知らずだったので、私は現役教員に対しても臆せず言いたい放題でした。

四苦八苦している教員の努力を否定しているような指摘だったわけですから。

そもそも具体的な改善策などなく、「本気でぶつかれば相手も心を開いてくれる」という根性論だったわけで、そんな未熟者の戯言などは、何の解決策にもつながっていなかったことが想像できます。

話して変わるのならば、頭脳集団である教員の誰もが実践しているでしょう。

しかし、あの頃の私は「初心忘れずべからず」という思いを訴えたかったねらいもあったのです。

ハートとハートのぶつかり合いというものは、大人になればなるほど見失ってしまうものだから。

当時生徒の年齢に近かった21歳の自分だからこそ言えたのです。

後に教員免許を取得して、教育の現場に立った私は、信念である「心と心で向き合うこと」を常に実践してきました。

いざ自分が行動に移してみて、人間というものは、そんな青春ドラマのように簡単に変わらないことを痛感しました。

世の中には色々な成育歴を経て、様々な思惑を持ちながら生きている人間がいることを知ります。

精神疾患や発達障害を抱える保護者や児童含めて数百名以上と接してきて、愛情や思い遣りだけでは根本が解決しないという実態を学ぶことになります。

本気で向き合うほど、子ども達からウザがられることもありました。

臆せずに更に続けると、相手の心が離れて行くのが手に取って分かりました。

子どもは純粋で態度に示してくるからです。

相手の立場からすれば、口うるさい大人だと思われていて当然です。

「お前のためを思ってこんなに真剣に叱ってあげている」なんて態度を取られたら、不信感が募る一方ですからね。

巧みな言葉で相手を都合の良い方に変えようとしても、すぐに見透かされて、反発されるだけです。

子どもは人を見抜く達人なのです。

そこから私の信念は少しずつ修正されていきました。

一言物申す前に、まずは相手の言い分や、心の訴えにじっくり耳を傾けるという聴き手に回ることにしたのです。

そこから、「待つ」スタンスを重要視するようになり、子ども達の関係も変化してきました。

話を聴いて待ち続けたことで、相手の方から本音を出してくれる回数が増えたのです。

恋愛が異性とのコミュ二ケーションが原則になっている以上、共通しているところがあります。

恋愛こそ真剣に向き合えば向き合うほど、相手に受け入れてもらえずに、失恋を繰り返す道を辿るようになるものです。

真面目な人間ほど損をするという経験は誰もが感じたことがあるのではないでしょうか。

そういう高い壁にぶつかると、今の自分を捨てた方が良いのか、苦しくても続けた方が良いのか、路頭に迷う場面がしばしば訪れるものです。

けれども、誰も正確な答えは教えてくれません。

自分の人生は自分で導き出すしかないのです。

葛藤の末に一つの結論に至ります。

本気でぶつかったからと言っても、相手とは分かり合えないことがある。

むしろ、分かり合えなくて当然だ。

そう簡単に自分を変えられないし、その必要もないのではないか。

分かる人は分かってくれるけれども、理解できない人はどれだけ頑張っても分かり合えないものです。

だからと言って思いが届かない人に失望するのではなくて、相手の立場で何を求めているのかという目線を持つことで、譲り合う気持ちや尊重する気持ちは高まります。

本気で向き合うと言うのは時にエゴでしか過ぎずに、独りよがりになってしまうことも往々にして生じます。

相手のニーズを把握して、与えられるような洞察力や柔軟性の方が大切になることもあるのです。

そして、本気さ、誠実さという思いは、何も言葉だけで表すものではありません。

相手を信じて待つこと。潔く身を引くことという態度からも伝えることができますし、むしろそういうスタンスの方が相手の心に響きます。

タモリさんの言うように、自分の信念や生き方に迷った時こそ、意固地になって相手と向き合い続けずに、離れれば分かるというのは、人間関係の真実だと思います。

2015年11月30日

Posted by TAKA