第251回「逆転移と恋愛感情について」

2015年11月30日実体験・人間考察コラム

相談援助活動を行う上で、意識的に気を付けている点があります。

その中でも相談者様との距離の取り方については、私の中で特に配慮をしているところです。

自分からは連絡をしない。

必要になった時に声をかけてもらったらサポートをさせていただく。

という形に徹しています。

最近では、心配な人間やその後のフォローを含めて、

近況確認のために連絡をするようなアプローチも行っていますが、それは身近な人間に対しての行いです。

サイト経由での相談援助対応については基本的に、私から追うという姿勢は取ってはいません。

このようなスタイルが定着した背景には、私の心の葛藤体験が影響しています。

とりわけ、ちょうど3年前にあった一つのエピソードを振り返ってみることにします。

逆転移

という言葉を耳にされたことがあるでしょうか。

先日まで放送されていたTVドラマの「DR倫太郎」の中でも頻繁に出ていたキーワードなので、イメージがつかめる方がいらっしゃるかもしれません。

逆転移とは平たく言うと、治療者が相談者側に抱く特別な感情のことを意味します。

とりわけDR倫太郎の中でも、恋愛感情をテーマに描かれていましたが、

私自身も3年前に出逢ったある相談者の女性に対して、

逆転移だと思えるような感情から、自分をコントロールできなくなってしまったことがありました。

今でこそ定着しているカウンセリングサービスですが、2012年の夏頃は、修業期間ということで、無料ボランティアで展開していました。

ある6月の終わり頃、一人の女性から、

助けてください

という冒頭で1000字にも渡るほどのSOSの長文メールを受けたことから関係がスタートしました。

幼少時代から不遇な生活を送ってきていたその女性は、過酷な環境で必死に生き抜いていました。

私はその一部始終を知って、ぜひ自分の力で支えてあげたいという思いが強くなりました。

と、ここまでは通常相談業務でよくある流れなのですが、この時ばかりはいつもとは違っていたのです。

それは、私の心の動きでした。

もっと相手を知りたい。

メールや通話ではなくて、傍で抱きしめてあげたい。

自分がこの女性を救ってあげたい。

抑えきれない相手への感情から、私は本来の立場から逸脱して、頻繁に連絡をするようになりました。

「今日は大丈夫ですか?」

相手の精神状態が心配で心配で、いつも連絡を自分から取っていました。

彼女は逆境に苦しみながらも、徐々に自分が幸せになるための道を広げて行きました。

そろそろ卒業の予感を覚えたある晩、私は自分の中での彼女の感情にけじめをつけるために、

その女性に包み隠さず気持ちを伝えることにしました。

私はあなたのことを大切に想っています。

その女性は一瞬驚いたようですが、同じような言葉を返してくれました。

私もとても大切な存在です。

しかし彼女には他に愛する男性がいたのです。

そして、私に対して向けられる眼差しは、あくまでも相談者と支援者という関係を望んでいるものでした。

彼女は私の特別な感情に気付いたようで、それから自然消滅のように距離が開いて行きました。

私は常に彼女に迷惑をかけないことを意識していたので、それ以上個人的な感情を露わにして、

追い回すような行為には及べませんでした。

彼女が現在幸せで生活していることを願って止みません。

あの時の感情は恋愛感情に近いものだったのだと振り返ります。

この体験によって、自分の気持ちをコントロールすることの大切さを痛感しました。

感情移入をしすぎることによって、個人的な感情を表出しながら向き合っていると、適切なカウンセリングを実施できないからです。

それからは自制心を意識しながら日々取り組んでいます。

11年の相談援助活動の中でもめったにない例でしたが、人と人との心のつながりの上では、時に自分でも想定外の感情が芽生えることがあるものです。

そのためにも、適切な距離感や克己心を常に意識しています。

自分の感情を第一にするのではなくて、あくまでも相手にとって最善の道を築けるようにすることが使命だと自覚しながら今日も取り組んでおります。

2015年11月30日

Posted by TAKA