第40回「大学入学後、変わり果てて行く友人を追って」その4

2015年12月3日実体験・人間考察コラム

前回はこちらから

大学4年生の11月に入り、卒業論文の提出や進路の下準備など、卒業に向けて本格的に忙しくなったこの時期に、親友のN君から、Y君の近況を聴かせてもらいました。

N君は地元が近いことから、Y君とは定期的にジョギングをしながら、共に汗を流したりしているようでした。


「TAKA氏~、Yの様子が最近変なんだよ~。

メールしても返ってこなくなってきたし、ようやくこの間一緒に走れたんだけれど、一言も口にせずに終始どんよりした表情だったんさ。

只事じゃなかったから、こっちからは探りを入れたりせずに様子見に徹してたら、ついに言われたよ。
 
『俺、死にたい』って」


1か月前からY君のレスポンスが明らかに悪くなったため、心配になったN君は思わず1通のメールを送ったそうです。


N君「何かあったん?悩みがあったら聞くよ」

Y君「わかった。じゃあ今度一緒にジョギングに行った時にでも話すよ」


琴線に響いたのだか、観念したのだか、ようやく約束をこぎつけられたようでした。
 

そしてY君から飛び出た言葉が、

「俺、死にたい」

だったのです。

 
誰もが知るY君の姿はそこにはありませんでした。
  
死を思いつめるほどの理由は何なのかを思索する前に、N君が教えてくれました。


「どうならYはまだ進路が決まってなくって、自分が将来どの職業に合っているか全く見えないからもがいているみたいよ。毎日先の見えない不安に押し潰されそうになっているみたい」

卒業間近のこの時期になっても未だに進路が決まってない焦りと不安は並々ならぬものであったことが容易く想像できました。

奇しくも高校3年の同時期に、Y君はセンター試験、一般入試組を出し抜いて、指定校推薦枠で合格をほしいままにしていました。

 
受験戦争を通過して、希望に胸を躍らせていた当時とは対極的な現状です。

精神が不安定なままN君と会った理由も、やり場のない悶々とした想いを気心許した誰かに吐露したかったのと、ジョギングで体を動かして汗をかくことで、現実逃避ならぬ気分転換を図りたかったのだと察します。

既にN君の留年が決まっていたところからも、遅れ組同士で、同じ目線で本音を話せる安心感があったのかもしれません。

一部始終を聞いて、かつての高校時代共に苦楽を乗り越えてきた戦友でもある私としては、彼の窮地を見て見ぬ振りできませんでした。
 
Y君の悩みの根本を解決できる自信があったわけではありませんでしたが、理屈ぬきで心配だったのです。

他ならぬ私自身が大学生活を挫折していただけに、共感できると思ったのです。


しかし、私が何度メールや電話で連絡を顧みようと、彼は無言を貫きました。

常にY君の動向は気になってはいましたが、卒論の追い込みと、卒業後の進路である他大学の入試が間近に控えていたため、同時進行でY君に連絡を試みていたN君に希望を託し、待ちの姿勢に切り替えました。

私生活がひと段落ついた頃には、季節は春の卒業シーズンまっさかりの時期に突入していました。
 
依然として音沙汰は途絶えがちでしたが、稀に連絡が繋がった時に聴き出せた情報は、Y君の卒業式の日程と決まらぬ進路の2点のみでした。

これ以上Y君の出方を窺っていたら、ますます距離は開いてしまう。

せめて彼が大学卒業までには、彼に会って話をしたいと結論を急いだ私とN君は、大胆な行動に移りました。

偶然にもY君の卒業式の日、私もN君もフリーだったので、合流してY君の自宅へと向かったのです。

アポなしで彼の家に訪問し、勢いで会わざるを得ない流れにこじつける目論見です。

15時頃にはY君の自宅の前に到着したので、卒業式が終わってそのまま帰っていれば、今まさに家にいる計算です。


N君は、

「今日は卒業式だから、大学の友人と都内で最後の時間を過ごしたり、謝恩会とかで、夜遅くまで帰ってこないよ」と、はなから諦めモードで向かっていたようですが、私の中では野生の勘から確信に近い思いがありました。

「Y君は必ず家にいる」

私の予想は間違いありませんでした。

 

2015年12月3日

Posted by TAKA