第40回「大学入学後に変わり果てて行く友人を追って」その3

2015年12月3日実体験・人間考察コラム

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高校卒業を機に、私もY君も、互いに別の大学に進学してからというものの、連絡は遠のいていきました。

 
私は地元から都内で一人暮らしを始めたことで、環境が激変したこともあって、Y君をはじめ、高校時代の友人とは連絡頻度が激減しました。
    
Y君と再会したのはそれから2年後の夏です。
 
大学生活に適応してきて、私が地元に帰省したのを理由に、Y君を含んだ高校時代の級友6名と集まったのです。

2年ぶりに会うY君の風貌は、高校時代よりもイケメンレベルがアップしていました。 

 
上半身は、ユナイテッドアローズの細見シルエットのグレー系テーラドジャケットと、ホワイトストライプのドレスシャツを着こなしており、下はリーバイス503のブラックストレートパンツとコンバースオールスターレザーの組み合わせで、ばっちり決めていました。
二十歳になって、従来の色気にワイルドさも加わっており、高校時代からのY君のトレードマークでもある黒髪のストレートはなおも健在で、ほのかなに香るブルガリの香水が、まるでフェロモンが分泌されているようでした。
 
都内の大学に進出したことで、ますます男性としても人間的にも洗練されているような印象を受けました。

ところが、後になって知るのですが、Y君はこの頃から斜陽を感じていたようです。

カラオケに移った際に、高校時代にはなかった最初の違和感を覚える場面に遭遇しました。

自分の番が回ってきても、一向に歌おうとしないのです。


他の級友はためらう彼に対して異口同音に、

「アニソンでもいいから歌おうぜ~」
「デュエットしようよ!!」
 
なんて熱く催促しているのですが、

Y君は涼しい顔で、「俺はカラオケ好きじゃないから、順番抜かしていいよ。みんなの唄を聴いていた方が楽しいし」と、かわすのでした。

カラオケにいるのに聴き役に徹するなんて、どれだけ良い人なんだと半ば呆れ気味になりました。

その後、Y君の立場も慮って、飲み屋に移動しました。

お決まりの話題の一つである「大学はどう?」のテーマになったとき、カラオケの場面では喜怒哀楽を表に出さなかったY君が、みるみるうちにどんよりとした表情に変貌しました。
 
彼は観念したかのように、重い口を開いて語りはじめました。

「大学はまぁまぁかな。これといって夢中になっていることはないけれど、家でゲームやったり、おやじと登山とか行ってるから楽しんでいる方かな。

 
でも、勉強が難しすぎてさぁ、単位取るのがやっとだよ。ミクロとかマクロとか数学的知識が欠けてるから全然理解できないよ。経済学部は実質文系じゃなくて理系だね。
 
周りも皆レベルが高い奴らばっかりで、なかなか話が合わないんだよね~。
 
たまに学校の帰りに遊びに行く学科の男友達ばっかりで、女子とも全然縁がないよ~。」
淡々と話すY君の実態は想像を裏切りました。
 
「かわいい彼女と甘い時間を過ごしながら、さぞ楽しい大学生活を送っているのんだろうな」と憶測を立てていたのがまんまと瓦解し、至って平凡な日々のようでした。
      
教員免許取得のための教職教科を履修しているわけでもなく、大学の友人とオールしながら夜の都心の繁華街に足を運ぶこともなく、「サークルも地味な自分に似合わないから」と、端から参加する気もなかったようで、自宅と学校の往復でした。

Y君が言うのには、自分は「井の中の蛙」だったそうです。

 
確かに高校時代、学科では上位の成績をキープできていたけれども、都内の大学に進んだことで、上には上があることを痛感したようです。
 

大学名で選んだだけに、興をそそられない経済学の課題に悪戦苦闘しているようでした。
     
そんな彼は、実父と日曜日毎に通う登山を生きる源にしていました。
 
全身から吹き出る汗を感じながら、目標の頂を一歩一歩目指していると、生を実感できると話してくれました。
 
まるで、高校時代、評定平均を上げるために中間、期末テストの勉強に臥薪嘗胆していた自分を取り戻す過程のように重なりました。

彼の意外な生活を知った私にとって、脳裏から離れないものとなりました。

 
 
高校時代を共に過ごしてきた戦友でもあり、どうしても追い越せなかった一歩先に進んでいた憧れのY君だったため、当時のイメージから脱却できなかったのです。
そして次に再会した際に、彼はもはやあの頃とは別人に変わり果てていたのです。
 

     
    

  

2015年12月3日

Posted by TAKA